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人混みと探し人





「……あれ、みんな…?」


飯屋に向かう道中、ななし1は四人の姿が無い事に気付いた。
特に混雑した市場を歩いている最中、ふと目にした雑貨屋に気を取られていた間に、見失ってしまったのだ。
身長が低めのななし1は背伸びをして周りを見渡すも、人の多さに遠くまで見渡せない。目印になる赤い髪も、金髪も、近くには居ない。

まだそんなに遠くに行っていないハズだと足を進めるも、人の多さでき上手く前に進む事が出来ないでいる。

生憎まだ宿は取っていないし、何処の飯屋に行くかも決めていない。これだけ大きな街の中から、しらみ潰しに当たるのは難しいだろう。
自分の冒した失態ではあるが、ななし1は心細くなってしまった。

それでも、とりあえずはこの道を歩けば居るかもしれない可能性を信じて、人混みを掻き分けながら辺りを見渡し続けた。



――――――――――――



「〜、居ない……何処に行ったんだろう…?」


人混みをかき分け、やっと開けた通りに出たのだが、やはり彼等の姿を見付ける事は出来なくて。
恐らく彼等も探してくれているとは思うのだが、ななし1には迷惑をかけてしまった罪悪感と相当怒っているであろう金髪の彼の事を思うと、なんとか見付けなくてはと焦ってしまう。

心細さと焦りを抱いて、再度辺りを見渡してみる。


三蔵が立ち寄りそうな煙草屋、悟空が大好きな路面の肉まん屋、悟浄が声をかけるだろう町娘、八戒が絶対見るであろう八百屋…
活気に溢れている街で、彼等が立ち寄りそうな店を探していく。


「……あの、すみません!」
「なんだい、お嬢さん?」

「少し前、四人組の男達が通りませんでしたか…?金髪のタレ目のお坊さんみたいな人と、身長の大きい赤髪のつり目と、小さい猿みたいな食いしん坊と、大きなお母さんみたいな男の人達なんですけど…、」

「…さぁ……、ちょっと分からないねぇ、ごめんなぁ。」
「いえ、こちらこそ…ありがとうございます…!」


ななし1は店番をしている老人に聞くも、期待する答えは帰って来なかった。
残念な気持ちを隠す様に服の裾を握るも、ななし1は気を取り直して他を当たる事にした。

他にも彼等が立ち寄りそうな店は、大抵予想がつく。
とにかく何とか情報だけでも得なければ。何とかなるはずだと自身を鼓舞し、ななし1は聞き込みを続けた。



その頃。


「ワリ、俺探しに行ってくるわ。」
「おぃ悟浄!!…どうする、三蔵っ!!」
「放っておけ。先ずは宿を取ると言っただろう、戻る場所がねえと動くに動けん。」

「…八戒…、」
「確かに、三蔵の言う事も一理あります。先ずは拠点となる場所を作らないと、僕達もはぐれかねません。」

何しろ、こんなに大きい街ですから。八戒が窓を覗けば、その宿は大通りに面していて、とても賑わいのある街だと言うのが良く分かる。
焦りを隠せない悟空が八戒に宥められれば、早く探しに行こうと彼等を急かす。先ずは荷物を置きましょう。手続きを終えて冷静に部屋へと足を進めた八戒に、彼が言うなら…と悟空が着いていく。


「俺はアイツ等が帰って来た時に備えてここで待っている。探したきゃ探してこい。」

「……、俺、行ってくる!!」
「悟空、僕達は二人で探しましょう。」

荷物を置いた八戒が言えば悟空は力強く頷いた。三蔵に後は頼みますと断りを入れて二人は部屋を後にする。
一人残った三蔵は窓辺の椅子に座るなり窓を開け、人が多く通る道を煙草を吹かしながら見下ろすのだった。その人並みに、よく知る彼女が居ないかを見渡す様に。



――――――――――――



――――――



「悪いね、そんな人達は見てないよ。」

「………そうですか…すみませんでした…、」

何件もの店と人を巡り、どの人達からも答えは一緒だった。
めげずに聞き続けて来たのだが、ここまで来ると流石に精神的なダメージがあって。
一通りの通りは満遍なく聞き込みをしたが、誰一人有力な情報が無い。

「………、みんな…、」

徐々に日が暮れてきて、空もオレンジに変わっていく。
ななし1自身も途方に暮れ、来た道を戻る様に遡っていく。まだ人通りの多い道を力無く歩けば、夕飯の食材や荷物を運ぶ人々と肩がぶつかって。
いつもであれば直ぐに謝罪の言葉が出るのだが、今日は何度その言葉を言ったか分からないななし1の口からは、棒読みの様な力の無い言葉しか出ない。

「……すみません……」
「まったく、気を付けやがれ!!」

ここまで寂しい気持ちになったのは久々だった。
三蔵一行に付いて行ってから、何だかんだで騒がしい旅路で、たまには一人になりたいと言う気持も少なからずあったハズだ。
なのに、こうも突然一人になってしまうと何でか寂しくてしょうがない。頭を過るのは、いつものやりとりをする四人の姿しかなくて。落ち込みに落ち込んだ彼女は下を向きながらフラフラと歩く。今にも涙が溢れそうだった。

大きな荷物を運ぶ男はフラフラと歩くななし1に気が付かず、体当たりをする様に荷物がぶつかった。後ろからどつく様な急な衝撃に、ななし1は倒れそうになる。

危ない、と思った時には体は傾き、膝から崩れ落ち地面に手を着こうとしていた。
その時。



「ななし1…!!」

「っ、…悟浄っ!!?」


突如捕まれた腕に、ななし1の体が大きく引っ張られた。
恐怖と驚きに顔を歪め相手の顔を見れば、そこには良く知った人物がいて。
膝を着く前に中途半端な格好で立っていると気が付けば、それは彼、悟浄に抱きしめられている状態で。
ゼェゼェと息を切らし、肩を上下に動かす悟浄は汗をかき、どこか悲痛そうな顔を浮かばせていて。

こんなにも人の通りが多い道なのに、ななし1の耳には体の密着した悟浄の荒い息遣いしか聞こえてこなかった。

「…、マジで、心配したんだぞ…!」

「っ、ごめんなさい、」

初めて聞く声に、ななし1の瞳が大きく揺れた。
心細さから解放された事と、悟浄を怒らせてしまった事、嬉しいのに不安な気持ちがぐちゃぐちゃになって、ななし1の目からポロポロと涙が溢れる。
悟浄としては勿論泣かしたかった訳では無いが、自身も感じていた不安や焦りを、ななし1にぶつけてしまう。
それでも目の前で静かに涙を流す彼女をそのままにしておく訳にもいかず、ななし1をしっかりと立たせると少し乱雑に抱きしめた。

「ごじょ……」

「ホント、ななし1居ないとダメだわ、俺。」

一言だけ囁かれた、甘い言葉。
パッと体を離しせばいつもの悟浄に戻っているのに、ななし1の鼓動が早くなったまま戻らない。

「…もう宿取ってるからよ、」

「うん、」

「後で三蔵に怒られてもフォローしねぇからな、」

「……うん、」

「あと、」

乱雑にななし1の手を握ると、悟浄は街を歩き出す。顔だけ軽くななし1の方へ振り向けば、困った様に笑っていて。


「手、離すんじゃねぇぞ。」

「うん…っ!!」

そこに見えるのは、ななし1が好きな、いつもの彼の顔だ。
悟浄の手を強く握り、人混みを抜けていく。早歩きの彼に負けない様に足を進めれば、人の波に流されない様に彼のゴツゴツした指が少し痛いくらいに絡んでいて。

三蔵からのお叱りなんて、考える余裕も無いくらいだ。

この優しくて温かい手を離したくない。先ほどまでは全く思えなかった余裕さえ出て来てしまうのだから、本当に不思議だ。
このまま二人で夜まで帰りたくない、なんて大胆に誘ってみるのも、アリかなって思ったりして。

結局、宿に着いて三蔵には叱られたのだけれども。


end

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