×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -




人生と温度




「おめでとうございます、ななし1。」

「、八戒…、ありがとう。スーツ、似合ってるね。」

扉をノックして入ってきた八戒が笑顔で言うと、ななし1は幸せそうな顔で答えた。


ななし1が彼の服装を見れば、かっちりとしたスーツを着こなす八戒に、やっぱり似合うねとさらに笑う。
スリーピースのディレクタースーツ。シルバーのネクタイに、スリーピークスに折られたポケットチーフが良く映えていて。


「…、ななし1もとても良く似合っていますよ。」

「嬉しい…っ、ありがとう。」


椅子に座るななし1の姿は、プリンセスラインの純白ドレス。細い鎖骨にネックレスが良く似合う。
これから身に纏うベールが、テーブルの上で今か今かと出番を待っているようだった。



今日は、悟浄とななし1の結婚式。



主賓として選ばれた八戒が、控え室に二人の姿を見に来たのだ。

「本当に良かったんですか??先に僕が見てしまって。」

「良いの。八戒は家族同然だし、そんなジンクス、私達には通用しないでしょ??」

「…フフ、それも、そうですね。」


結婚する新婦には、ジンクスがある。
それは、式前の花嫁姿は誰にも見せない方が良い…と言うものなのだが、ななし1はそれを一蹴。
今まで神に仏に喧嘩を売ってきた一行の彼との結婚だ。皮肉の様にななし1が言えば、八戒と二人して笑うのだった。



ーートントン

「ななし1、準備はどうだ……って八戒!!」

「おや悟浄、意外と時間かかりましたねぇ。」

開けるぞ。の一言も無しに、悟浄が控え室に入ってきた。
花嫁を見に来たのだが、それよりも先に視界に入る、親友であり、旅仲間の八戒。まさかの訪問に驚いた悟浄が、ビビらせんなと八戒の肩にどつく様に腕を組めば、お互いスーツ姿がピンと来ないと笑い合う。

そんな仲の良い二人の姿がとても微笑ましくて、ななし1も釣られて笑顔になるのだった。

悟浄が目的を忘れていた事に気付き、我に帰ると彼はななし1を見て、八戒から腕を離し、少し真面目な顔で近付いた。
そのまま椅子に座るななし1の目の前に跪くと、彼女の手を取り、手の甲にそっとキスを落とす。


「…すげー、似合ってんぞ。」

「、ありがとう。」


上目遣いでななし1に言う悟浄がいつものニヒルな顔で笑うと、彼女は顔を赤らめる。
なんと幸せな光景だろうか。そんな二人のを微笑ましくて見ていた八戒が、また後程。と、控え室から出て行った。

「…悟浄も、凄くカッコいい。」

「当たり前だろ??俺は何でも似合っちゃうんだって。」

悟浄はななし1の華奢な肩に手を置くと、そっと撫でる。肌触りの良い素肌が気持ち良くて、悟浄がそっと鎖骨に顔を寄せれば、ななし1は恥ずかしそうに笑って彼を抱きしめた。


「……悟浄、私、凄く幸せなの。」

「…俺もだぜ。」


体が離れ、お互いに顔を見合わせれば絡まる視線。キスをしようとした悟浄の唇にななし1が人指し指を立てて止めれば、まだだよ。と悪戯に笑うのだった。



ーーーーー



「三蔵…付き合ってくれて、ありがとう。」

「……フン、今さらだな。」

それもそうだ、とななし1が笑う隣には三蔵。
タキシードをビシッと決めた出で立ちは、本当にモテる容姿をしているなぁと思える瞬間だった。
そんな彼にバージンロードのエスコートをお願いしているのだから、ななし1はくすぐったい様な恥ずかしさが拭えない。

身寄りの居ない彼女は、そう言う類いを全て諦めていたのだが、ダメ元で三蔵を誘ったところ、渋々…ではあるが承諾してくれたのだ。それは、旅を一緒にする様になってから保護者として『一応』は見守ってくれた彼が、適任だったから。

その話には、意味も分からず賛成してくれた悟空や、何だかんだで頼んでくれた悟浄に感謝してもしきれない。

あの三蔵がかっちりとしたスーツと言うのも面白いのだけれど、お坊さんである彼がチャペルに居ると言うのも新鮮味がある。
相変わらず不機嫌そうな顔をしている三蔵を見れば、今までの感謝や思い出が溢れて止まらない。


「…嬉しい。大切な人にお祝いしてもらえて…、」

「……祝の日だってのに…そんな暗い顔した花嫁が何処にいるんだ。」

「………、三蔵」

「………新しい門出だ。もっと幸せそうな顔しやがれ。」

「……、」

感無量。この言葉につきるとななし1が切なそうに笑えば、やはり不機嫌そうな三蔵がななし1を肘で小突く。
手に持ったブーケが少し揺れ、既に緩くなっている涙腺を立て直そうと深呼吸をすれば、ウエディングスタッフが入場の合図をして。

ハッとしたななし1が顔を上げると、にこやかな笑顔をしたスタッフと目が合った。



「…幸せになれよ。」

「…、ありがとう…。」



三蔵がボソリと囁く言葉に礼を言うと、ゆっくりと開く、重厚な扉。鳴り響くファンファーレ。

花の散りばめられたバージンロードをゆっくり歩けば、前に待つ赤髪の彼。
白のタキシードに、長い赤髪は後ろで束ねていて。高身長なだけあって、ヴェール越しの白んだ視界でもハッキリと分かる、すらりと見える姿に、ななし1の胸が高鳴った。


一歩ずつ、ゆっくりと歩く道。


ななし1チラリと周りを見れば、出席してくれた友達やお世話になっている街の人。皆が優しい顔で悟浄とななし1を見守ってくれている。
悟空は慣れないスーツと環境に緊張しているのか、ガチガチに立っている。八戒が悟空の肩に手を置いて、落ち着かせようと必死なのも丸見えだ。それが、彼等らしい。とななし1が口端を上げれば、悟空と目が合った。
悟空もななし1の笑みに気が付けば、興奮した様な笑みを見せて手を大きく振る。それを苦笑した八戒に止められているのだから、面白くってさらに唇が弧を描くのだった。


「ったく、三蔵サマはお猿チャンの教育しっかりしろよなー。」

「生憎、放任主義なんでな。」

「おいななし1、聞いたか?放任主義の三蔵なんてエスコート役向いてねーぞ。」

「頭下げて来たのはそっちだろうが。」

「ちょ、二人とも…っ」


ーーオホンッ


二人のボソボソとしたやり取りに、牧師が咳払いをすれば流石に罰が悪そうに黙る二人。
ななし1もスムーズに行くハズが無いとは薄々思っていたが、こんなにも持たないとは。未だに、怒られたのはそっちの所為だ!とななし1を挟んで目線で文句を言い合っているのだから、ななし1も苦笑が止まらない。この二人は本当に仲が良い。きっと、言ったら二人とも怒るだろうから言わないけれど。

三蔵の腕から離れ、悟浄の腕に手を回す。悟浄と目が合えば、とても優しい顔をしていて。


ーーー私たちは今、新郎悟浄と、新婦ななし1の、結婚式を挙げようとしていますーーー


牧師の声が、チャペルに響く。




一応…は滞りなく進む式。

誓いの言葉は悟浄の上手く使えない敬語が周りの笑いを誘い、牧師が豆鉄砲を食らった顔をしていたが、大きな問題は起きていない、と。
神や仏に喧嘩を売ってきた彼等が、別の神から祝福を受けようとしているのだから、それを知る身内は、たまに笑いそうになってしまう。それは悟浄もななし1も一緒だが。

やっぱりアイツ等、似合わねぇなと。


ーーーでは、指輪を交換してください、ーーー


祭壇から二人の前に来た牧師が、運んできた指輪。
悟浄が指輪を取ると、手袋を外したななし1の指に、そっと付ける。
ななし1の指から顔に視線を移せば、彼女は填められた指輪を嬉しそうに見ていたのだが、反対にななし1が指を付ける際にはかなり緊張した面持ちで指が少し震えていた。悟浄としてはそれが可愛くて、笑いを堪えようと口端を上げた。

お互いに指輪が填め終わると、ななし1は不思議な感覚だった。緊張と幸福、それと恥ずかしさがごちゃ混ぜの様な感じだと。

そんな彼女の事はお構い無しに、大きくゴツゴツとした悟浄の手が、ななし1のヴェールをゆっくりと上げる。
俯き気味に瞼を伏せていたななし1が目を開け見上げれば、少し緊張した顔の悟浄。きっと、彼も同じ気持ちなんだろう。ななし1の腕に手を添えると、そっと顔が近付いて。

身長の高い悟浄に合わせて顔を上げれば、愛しそうに見つめる悟浄と、目が合った。そんな顔を見れば、ぎこちなさそうだったななし1も自然と笑みが零れそうで、幸せな顔を悟浄に見せる。

そして、悟浄に身を委ねる様に目を閉じた。

これから始まる、新しい喜び、苦労。
今まで5人で分かち合った色んな物が、新しく2人になる様な。きっと、これからも5人集まってワイワイするのは間違いが無いけれど。

これから始まる、新しい人生。


唇に感じる、幸せの温度。




「…愛してるぜ、ななし1。」


言葉にされた、ニヒルな彼からの最高の告白。

神様よりも、よっぽど良い男じゃないか。



end

[ 23/76 ]

[*prev] [next#]