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いつもと違う事

街中を歩いてると、ななし1の隣を歩く悟浄に声を掛る、綺麗な女性が一人。


「悟浄じゃなぁい!!最近遊んでくれないけど、どーしたの??」

「おぉ、久しぶりだな。……ま、俺、今そーゆーの無しにしてんの。またなー。」

「??悟浄、お友達??」

「……んまぁ、そんなトコ。」


悟浄の影からひょこりと顔を覗かせたななし1が彼の顔を見上げれば、彼は罰が悪そうな顔でななし1から視線を反らした。
友達ならばもう少し話をした方が良いだろうに。首を傾げたななし1は女性と悟浄を交互に見れば、彼の腕を引き、足を止めようとする。

しかし悟浄は、女性には挨拶もそこそこに、逆にななし1の腕を引いて足早に街中を歩くではないか。


「……良かったの??知り合いでしょう??」

「そっ。…昔の…な、気にしなくていーんだよ。」

「……そう…?」


ななし1が後ろを振り返れば、女性は相変わらず悟浄に視線を送っているものだから、ななし1はこれからの事を考えて少しお節介になってしまう。

「…、でも…旅に出るなら、挨拶くらいしておいた方が…」

「気にすんな、って言ったろ…??」

後ろを振り返り気にしながら歩くななし1の頭を鷲掴みし、頭ごと前に向かせた悟浄。ななし1がチラリと視線で彼を見上げれば、何とも言い難い表情をしていて。

「………………、」

無理矢理そっか…とそれ以上の言葉を飲み込んで、ななし1は悟浄と街を歩く。
触れて欲しく無い事は、誰にだってあることだ。




「…あ、悟浄、この下着可愛い…!」

「ぁあ…??じゃーコレ買うか。」


今日は、悟浄の旅の準備として街に繰り出している最中だ。

出発を数週間後に控えた悟浄が必要とするであろう物を見て回り、悟浄に似合う!!とななし1が歓喜した物。彼女の意見なら…とその選ばれた下着を買っていく。
そこまで大荷物にはならないものの、悟浄の片手には紙袋が増えていった。



「…今日はご飯食べてく…?」

「そーだな。俺、久々に肉食いてーのよ。」

「あははっ、じゃあ…お肉屋さん寄って帰ろう!」


ニヒルな笑みを浮かべた悟浄がそう言えば、今日はななし1の家でステーキ祭りだと二人して笑い合った。
精肉屋で良質な肉をたらふく買えば、全て悟浄が手に抱える。それがななし1にとっては少し申し訳ないと思う事の一つなのだが、彼は悪戯に笑って持たせてはくれない。こそが優しい所でもあり、頼りになることでもあって。この人と付き合って良かったと思える瞬間だった。


夕暮れ時になれば、悟浄がおもむろにななし1の手を握る。最初からは恥ずかしいのか、いつも帰りのタイミングでしてくれる手繋ぎがななし1は好きだった。
えへへ、と笑うななし1が手を握り返せば、悟浄も指を絡めてくれる。そして仲良く彼女の家に帰るのだった。



ーーーーー



食べたがっていた肉をたらふく食べ、いつもの様にソファーに座る悟浄。
テレビは付けているものの、バラエティーの内容なんて全く頭に入ってない様で。ただ、ボーっとした表情で、ただ、画面を見つめる。

ななし1は洗い物が終われば、いつもの様にソファーで寛ぐ悟浄の隣に座り、いつもの様に悟浄の肩に頭をポスン、と預ける。

それを合図の様に、ななし1の肩に手を回す悟浄。
お互いに少し体勢を変えれば、悟浄はななし1の瞼にキスを落とす。そして彼女が顔を上げれば、今度は唇にキスを落とすのだ。



しばらく、ただ触れるだけのキス。

悟浄が唇を離せば、ななし1は悟浄をうっとりと見つめ返す。そんな彼女の頬に片手を添えてやると、彼女はそれに気持ち良さそうにすり寄った。

ななし1は、この表情が好きなのに辛い。
キスの後の悟浄は、いつもこの真面目な顔してる。いつもとのギャップを感じて、余計にときめいてしまうのだ。
それでも、やはり笑顔が見たい…と言う気持ちにでもなってしまう。

「早く、帰って来るからな。」

「……うん、待ってる。」

ななし1が優しく微笑めば、悟浄は思わず彼女の体を抱きしめる。そうすれば、ななし1も照れながら抱き返してくれるのだ。これもいつもの事。



しかし、彼女は分かっている。

今日もこれ以上、先には進まない事を。



なんて言っても、キスより先をした事がまともにない。
一度、酔っ払った悟浄がななし1を襲いかけた事があったが、服を無理やり脱がした時点で彼女が恐怖で泣いてしまい、それ以来お互いに踏み込めないでいた。


「……じゃ、そろそろ帰るわ。しっかり戸締まりしとけよ…?」

「…うん、悟浄も気を付けてね…??」


今日もこうやって、時間になれば悟浄は家に帰って行く。いつもの様に玄関まで見送れば、お互いの頬にキスを落とす。


「「おやすみ」」


彼の赤い髪の毛が夜風になびけば、玄関まで侵入した風がななし1の髪の毛もなびかせる。
静かに扉が閉まり、数秒経てばお互いため息をつくのも、いつもの事だった。



ーーーーー



帰り道の悟浄が、道端の空き缶を蹴り飛ばす。

ため息を深くつけば、今日もまた手を出せなかった事を後悔するのだ。まだウブなななし1を、自分が汚して良いものなのか。
彼女は赤髪の理由も知っているし、旅を出る事だって包み隠さず言った恋仲だ。
こんな中途半端な存在の自分を慕い、それでも健気に待ってくれようとする彼女の姿。
それがとても嬉しいのだが、同時に罪悪感も感じている。

それは、今まで重ねてきた多くの女性関係や、とてもマトモとは言い難い仕事の数々。それらを知られるのが嫌だ…という訳ではないが、ななし1に引かれてしまうのが嫌だった。

この娘だけは大切にしよう、と思った途端、手が出せない自分。


「……どっかの高校生かっつーの。」





その頃、お風呂に入っていたななし1も悩んでいて。

悟浄がプレイボーイなのは前から何となく感じていているし、今日の女性だって恐らくその関係だろう、と。
そこは気にしない様にしているし(…いや、多少は気になる)、過去の事なら…と受け止めようとは努力しているつもりだ。

それでも、手を出して来ないのには少し堪える。
そりゃあ、今日の女性みたいに露出は少ないし、赤い口紅なんて付けた事も無い。
湯船から見える自分の身体を見れば、酷くため息が出た。ありそうで、あまりない…ごくごく普通の胸、くびれ、尻。


「……魅力、ないのかなぁ…」


お湯に口まで浸って息を吹き出せば、自分の気持ちがブクブクと泡になって出ていく様な気分で。

今日の女性との関係に、焼きもちを妬いている事に気付けば、その思考を掻き消す様に頭までお湯に浸かるのだった。



ーーーーー



数日後、ななし1は仕事が休みだった。

特にする事も無いし、家に居れば心がじめじめしてカビが生えそうだと、久々に一人で街をぶらついてみる。

何となく、悟浄を誘う気には、なれなかった。

それでも、たまには気合い入れてみよう!!と思い、クローゼットから取り出したワンピース。
少し慣れない、膝上15cmのワンピースに、髪の毛も巻いてポニーテールにしてみた。
ヒールは履き慣れた。何故なら、悟浄との身長差を埋める為にいつも履いているからだ。


ななし1と悟浄のデートは、いつも彼女の仕事終わり等でパンツスタイルが多いのだが、久々のお洒落にななし1は心なしか心が弾む気分だった。
と言っても、それでも街中で見る女の子達の様に露出が多い訳ではない。
そしてたまたま通りかかった、いつも見るだけのお店。

(……ちょっと、見るだけ見てみようかな…??)

それは、いわゆる女の子の聖地のような店。

おどおどしながら店に入れば、案の定、自慢の細い足をガッツリ出した店員や、身体のラインが色っぽい服を纏った店員が待ち構えている。

(……可愛い。可愛いけど、無理かな…。)

それでも、先日の女性はこんな感じの服を着ていたなぁ。と思い返しながら服を見て回る。

「……あ、これ可愛い。」

たまたま気になった服を手に取り、鏡越しに合わせてみる。
先日の女性と比べると、色々と違う気がするのだけれども、デザインがななし1の心をくすぐった。
いつの間にか隣に居る店員は、似合うだの試着してみるだの、購買意欲を沸かせる事ばかり言うものだから、ななし1は勢いに乗ってつい、試しに……となってしまう。



「ありがと〜ございましたぁ〜!!」



……そして、買ってしまった。

何だかサイズもピッタリだったし、丈は短いけど一応サロペットだし、フロントオープンだからちょっとセクシーかな…等と言い訳がましい思考を巡らせてみるが。

何処に着ていくんだ、この服を。

ちょっと冷静になれば思うソレに、ななし1はため息をつく。今さらながら、凄く彼女を意識して買ってしまった自分が、嫌になってきた。
悟浄が喜んでくれる…と思う買い物であれば、心も弾むのに。

もう今日は食材を買って帰ろう。そう思った時、何処かからか、聞こえた声。


「…あれ、ななし1か…??」

「……??…あ。悟浄…!」

聞きなれた声がして辺りを見渡せば、一際目立つ赤色の彼。ななし1が小走りで駆け寄ると、悟浄が片手でそっと体を支える様に抱きしめる。

「…休みだったのか??」

「うん、悟浄は??」
「俺はあの坊主に頼まれて宝物庫の掃除。」

「あはは、お疲れ様。もう終わったの??」

「おー、ったく。仕事の量と人数考えやがれってんだ……って、お前、今日何か雰囲気違くね…??」

「う…うん…そう……???、変、かな…??」

「……いんや、似合ってる似合ってるけどよー、」


何だかなぁ、と腑に落ちない表情をした悟浄。
そして特にやましい事なんて無いのに、焦るななし1。
そんな二人はお互いの顔を見れば、お互いに視線を反らし、気まずい空気が流れてしまった。


「…ななし1お前、この後用事あんの??」

「……ないよ、」

「……あっそ、」


大通りを、肩を並べて歩く。

何となく素っ気ない態度の悟浄に、ななし1は胸がチクリと痛んだ。
何が原因か分かりもしないのに、悟浄を怒らせてしまったと思ったからだ。素直に甘え、今日の格好を誉められれば良いものの、それが出来たら苦労しない。そんな可愛い気の無い自分が不甲斐なく思えて、涙が出そうだった。
面倒な女と思われたくない一心で、必死に歯を食い縛って耐える。

彼の前では笑顔で居たいと、付き合った当初から思っていた事だったから。


「…………今日、…ご飯…食べてかない…?」

「…わり…今日は……」


ななし1は自身の拳を握り締め、悟浄を誘う。
もしかしたら、買った服を着るチャンスがあるかも知れない。もしかしたら、彼が気に入ってくれるかも知れない。

………でも、もし気に入ってくれなかったら…??

どんどん自己嫌悪に囚われる、ななし1の心。

案の定、その気になれない悟浄は、何かにつけて断ろうとななし1を見た。
それはいつもと雰囲気や格好の違うななし1に、下手して傷付けたく無いと言う心の表れで。

しかしそんな思考も、彼女を見れば停止する。
悟浄の服の裾を引っ張りながら、顔を紅潮させて涙目の姿。煙草なんて吸っていないのに、悟浄は薄く開いた唇から細く息を吐き出した。


「……すんげー腹へってんぞ、俺。」

「…うん、」

「…あのチビ猿みたいに食うぞ…?」

「…うん、」

「買い物、行くか。」

「……うん、」


悟浄は大きく息を吸うと、ななし1の手を引き街を歩き出した。
そして二人はあまり会話をしないまま、食材の買い物をし、いつも通りななし1の家に帰るのだった。



ーーーーー



大量…という程では無いにしても、大皿の料理をぺろりと平らげた悟浄。

やはり、いつもの様にソファーでテレビを付けている。ただ、いつもと違うのは、後ろのキッチンで洗い物をしているななし1の後ろ姿を、何度もチラチラと見ている事だ。
指に挟む煙草が、灰を限界まで蓄えていることに気付かない程に。


(…何で、こんなにスッキリしねぇかなあ…?)


答えを探すべく、悟浄はソファーから立ち上がると、気配無くななし1の背後に忍び寄る。
そして、彼女が気付かない事を良い事に、後ろか腕を回してその華奢な身体を抱きしめた。

「、きゃぁっ…!?…って、悟浄…??」

「…………なーんか、ヤな感じしねぇ??」

「……ヤな感じ…?」

「そー。ごじょさん、なーんかムカつくのよ。」

「…何か…した…??」

「そーじゃなくてよ…」

自分でも何だか分からん!!と考える悟浄に、ななし1は苦笑した。
洗い物も終わり、後は拭くだけだ。それよりも、珍しく身体を密着させてくる悟浄と一緒に居たくて、ななし1はくるりと身体を回し、悟浄の方に振り返る。そして上目遣いで悟浄を見れば、悟浄は少しだけ驚いた様子で口を開き、暫く黙り混んだ。



「…………、何で、今日こんなに頑張ってんの…?」


悟浄がおもむろにシンクの縁に両手を置くと、ななし1が目を見開く。そして彼女の後ろにシンクがあるのを良い事に、彼女の膝の間に自分の膝を割り込ませた。腕と膝で柵を作られ、逃げ場がないななし1の横腹に手を添えると、そのまま膝から太ももを撫でる。ワンピースのスカートを少し捲ってやるれば、驚いたななし1が何事かと悟浄の手を止める。

「……!!何で、って………悟浄!?」

「………答えねぇと止めねぇケド??」

「〜〜〜っ!」

顔を真っ赤に染めたななし1の表情を楽しむ様に、悟浄が悪戯に笑う。口を手の甲で隠すななし1だったが、それすら悟浄の手が払い取ってしまえば、瞳をゆらゆらと揺らしたななし1と目が合って。

悟浄は、この純粋な瞳がとても好きだ。

吸い込まれてしまいそうな程、活力と生気に満ちた瞳。まるで、汚れた自分が浄化された様な気持ちになるからだ。
それでも、その瞳はすぐに影を作り、ななし1の口から辿々しく紡がれる言葉達。


「………この間の……」

「…ん…??」

「この間の、女性みたいに、………色気、ないから…せめて格好だけでもって…思って………、」


この間の女性???誰だっけか、と悟浄が思考を巡らせば、一緒に買い物した時に遭遇した女を思い出す。そして改めて分かった、自分の失態。

悟浄は大きなため息を吐き出すと、頭をガシガシ掻きむしる。そのため息を、ななし1が落胆のため息だと勘違いし、ななし1を追い詰めているとは露知らずに。

そして、口に出すのだ。


「………マジで、そーゆーコトすんなよ…」

「……っ、!!!」

身体がビクリ、と震えたななし1の頭に手を置き、彼女と目線が合うように屈む悟浄。
眉尻を下げ、今にも涙が零れそうなななし1を見れば何泣きそうなんだよ、と微笑みを浮かべ、優しく言う。

「お前は、そのまんまが一番可愛いっつーの。」

「……、でも、悟浄の周り、そーゆー人ばっかりだから……、待っても、キス以上…ないし…」

「……不安にさせたか…?」

潤い過ぎた瞳から、大粒の涙が零れ、コクリと頷くななし1。

そうか、と悟浄が独り言の様にぼやけば、ななし1の膝裏と背中に腕を回し、体を軽々と持ち上げた。
先日の彼女…の話が出た時点から、悟浄の勘はある意味当たっていた。

そのまま、悟浄は寝室のドアノブを器用に開ければ、足でドアを押す様に開かせる。

ななし1をベッドに下ろし、悟浄も一緒に寝転がる。
突然の事に驚き目を丸くしたままのななし1の額に、優しいキスを落として。

「……俺には、過去の事だとか…今までのモンがある。……お前には後悔はさせたくない…」

「…しない、それも含めて、悟浄だもん…。」、

「……そう言われちまうと、優しくできねぇかも…?」


今まで我慢してきたからさ。

優しく笑う悟浄がななし1の涙をそっと指で拭えば、顔を赤くして照れ臭そうに笑うななし1。

「…やっぱり、悟浄は色男だね。」

「……今後は、お前の前だけで…な??」

ななし1が悟浄に手を伸ばせば、ニヤリと笑う悟浄と、ベッドに沈んだ。


end

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