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勝者の首飾り

「ねぇ、八戒!ココ寄ってもいい??」

「えぇ、もちろん良いですよ。」

「ありがと!ちょっと、待っててね」

買い出し中、ななし1はとある店を見付けると、八戒の服の裾を引っ張って彼を呼び止めた。
八戒がモノクルを上下に上げ、見えたその看板は生地店。ななし1は八戒に荷物を持ってもらうと、彼を店の前で待たせそそくさと店に入る。



そして待つこと数十分。



「おまたせっ!ちょっと買いすぎちゃった。」

あははと苦笑いしながら、ななし1が店から出て来れば、その手には大きな紙袋を抱えていて。八戒に持たせたままの荷物を貰おうとするななし1だったが、それは八戒によって阻止された。
その代わり、解れたシャツ等を補修するための針や糸だろう。と思ってばかりいた八戒が、不思議そうに頭を傾げて聞くのだ。


「…ななし1、何を買ったんですか??」

「ん??これはねぇ、毛糸と、かぎ針だよ!!……あ。八戒は、何色が好き??」

「…そうですねぇ、イメージカラーの緑は好きですけど、服に合わせるなら…グレーでしょうか??」

これまた珍しい物を買ったものだと、八戒が少し驚いていれば、ななし1は照れくさそうに、意外と編み物が得意なのだ!!と笑うのだ。
今度は逆に聞かれた質問に、八戒は顎に手を置いて考えると、微笑んで答える。

「グレーかぁー、分かった!!」

「僕に、ですか??」

「んーとね、まだ内緒っ!!でも楽しみにしててね!」

八戒は少し悪戯な笑みを浮かべると、ななし1はそれをかわす様に無邪気な笑顔で答えた。残念です。と答えた八戒だったが、どこか顔が嬉しそうで。そのまま歩きながら宿に向かう二人。

(……もしかしたら、ななし1…)

少しだけ高鳴る胸が、少しだけうるさいと八戒は苦笑いするのだった。



ーーーーーーーーーー



「悟浄〜!ねぇ〜、悟浄??」

「ーーなんだよ!?聞こえてるっつーの!!」

ドンドン!!!と他の宿泊客にも聞こえるであろう大音量を聞かされ、ベッドから起き上がった悟浄。
昼寝でもしていたのか、頭をガジガジと掻き、あくびをしながら歩いて部屋のドアを開けると、案の定ななし1は少し興奮気味に悟浄に食い付いた。
目をキラキラさせながら見上げて来るななし1に、最初はたじろいだものの、話を何だと聞いてやる。


「あのさっ、貰うなら!!セーターとマフラー、どっちがいい??」

「あぁ…??なんだってそんな事…」
「良いから!!どっち!??」

「……そりゃ、マフラーだろ…。セーターは重いしな…、」

「マフラーかぁ、…やっぱりそうだよね!!ありがとう、悟浄で良かったっ…!」

「あぁ……?何、その意味ありげな発言…、」


気になるじゃん。と呟く悟浄は、昼寝の邪魔をされた仕返しと、興味のそそる言葉を口にしたななし1を、口説く様にニヤリと笑い彼女の腰に腕を回そうとする。

ななし1はキョトン、と目を丸くしていたのだが、意味が分かると顔を赤らめ、悟浄の腕をペシペシと叩く。そして彼の腕を叩く様に振りほどくと、笑顔を見せながら感謝の言葉を述べ、バタバタと自室の戻って行くではないか。
それでも、最後にななし1言われた一言に、悟浄は頬の緩みを手で隠す様に覆うのだった。


「、内緒っ!!楽しみにしてねっ!」

(………ナニ、俺にくれんの…?)



ーーーーーーーーーー



「悟空ぅ〜、手、出して??」

「ん???……こう?」

悟空がななし1に手を差し出すと、ななし1は悟空の手に自分の手を合わせる。
間接一つ分ほど大きな手に、ななし1がほえー、と息をついた。

「やっぱ悟空の手、大きいね〜!!」

「そうかぁ??ななし1の手は小せぇんだなっ!!」

にっこり笑う悟空に、ななし1も釣られて笑顔になる。

「ね、悟空、いただきますのポーズして??」

「こう??」

「ん、んで、手だけこっちに向けて〜…」

おもむろにななし1は紙袋の中から毛糸を取り出すと、悟空の合わせた両手にくるくると毛糸を巻き付けていく。

「これで、なにがあるんだ??」

突然、意味の分からない行動に悟空は毛糸で巻かれていく自分の手と、毛糸を巻いていくななし1の手を瞬きをしながら見ていく。

「内緒……だけど、悪い事じゃないから、安心して…?」

「……!!…お、おう…!?」

悪戯な笑みで悟空を見上げるななし1に、悟空は顔が赤くなるのを感じた。
一度意識してしまうと、中々戻らない鼓動と熱。

考えれば考えるほど、今までにどうやって喋っていたかすら分からなくなり、悟空の頭から知恵熱の湯気が出る頃、彼の手はまるで鉄アレイの様に毛糸で膨らんでいた。

「悟空、ごめん……体調悪かったなら言ってくれれば良かったのに……」

「んー、何かさ、コレはコレで良いかも……って思って……」

「……何が????」

膝枕で看病される悟空は、ヘラりと力無く笑うと
まるで口から何かが抜けていく様に気を失うのだった。



ーーーーーーーーーー



「ななし1、最近すぐに部屋に戻るが何してやがる。」
「ん〜、秘密…かな??」

「…………あ"ぁ…??」

朝食を食べ、宿に歩く途中。三蔵は歩くペースを少しずつ合わせると彼女の隣を歩いた。口にした質問に対し、ななし1が口に指を当てて誤魔化すと、ギロリと睨みを効かせて彼女を見る。
しばらく町に滞在する予定ではあったが、ここ最近のななし1はすぐに部屋に戻ってしまう。

いつもであれば、後で騒ぎながら歩く奴等とカードで遊んだり、一緒に静かに茶を飲む時間だったりと過ごしているにも関わらず、篭りっぱなしなのだ。それでも口を割らずに笑顔のななし1に、三蔵は舌打ちをした。

「…その顔、何か良い事でもあったのか。」
「ん〜、それも秘密…!!」
「却下だ。」
「じゃあ、ナイショ!!」

「どっちも一緒だろうが。」

何かを思い出したかの様に照れるななし1に、三蔵はたまらずハリセンで叩く。
理不尽だと涙目で訴えるななし1ではあるが、三蔵からすれば一人でニヤニヤとニヤケるななし1の、誰が、何がそうさせているのか分からない憤りを感じていた。

折角、この町でななし1とゆっくり出来るかもしれない……と期待しただけに。


そして宿に着けば直ぐ様部屋に閉じ籠るななし1に、三蔵は再度舌打ちをするのだった。



ーーーーーーーーーー



「出来たぁ〜!!」


部屋で伸びをすると、準備もそこそこにななし1は部屋を出た。
アレが入った紙袋を大切に抱きしめ、向かうのはもちろんあの四人が居る部屋で。

(………、喜んでくれるかなぁ…??)

緊張と照れ臭さから、ドアがやけに頑丈そうに見えて、難問の様だった。
そんなななし1はゆっくりと深呼吸をして、部屋のドアを控え目にノックする。



「はーい、どちら様で……ななし1??」

ガチャリと開いたドアから、八戒が顔を覗かせる。ドアの前に待つ彼女の姿を見るなり微笑む八戒に、ななし1は少し安堵した。

部屋の中に入ればいつもの四人の光景で、悟空と悟浄はカードで遊んでいるし、三蔵は眼鏡を掛けて新聞を読んでいる。
きっと八戒は三蔵の向かい側の椅子でお母さんの様になっていたんだろう。

部屋の皆がななし1に視線を送る中、ななし1はやはり照れ臭さそうに笑いながら、紙袋を差し出すのだ。

「…コレ、みんなに作ったんだぁ…」

食い物だ!!!!と喜んで席を立つ悟空だが、悟浄が頭を押さえて椅子に座らせた。前触れもなくされたそれに、腹を立てた悟空が悟浄の髪の毛を引っ張り悪口を言えば、悟浄もそれに乗っかって言い合いに。
ポコスカと始まる喧嘩を、拳銃のトリガーを引かれそうな程脅されれば、ななし1は耳を塞ぐ準備をして苦笑いをするのだった。


「…ななし1、出来たって言うのは、何を作ったんですか…?」

「あ、そうそう!!……ちょっと夢中になりすぎて、長くなっちゃたから、アレなんだけど……」


八戒が話を仕切り直すと、思い出した様に紙袋を漁るななし1。

あはは、と苦笑いをする彼女と、紙袋から時より見えた毛糸の塊に、一同は息を高鳴る胸を抑えながら息を飲む。

そう、何て言ったって。


((((俺(僕)へのプレゼント!!!!!))))


一同が熱く見守る中、ななし1はいち早く三蔵の元に駆け寄ると袋から取り出すアレ。

ふわり、と三蔵の首元に巻かれた、マフラー。


「……ななし1、お前にしては上出来じゃねえか。」

「良かった、三蔵に喜んでもらえてっ」

当然だ。と言わんばかりの態度を取りながら、ななし1から貰ったマフラーを巻き直す三蔵。
冬でも暖かそうなマフラーに、悟空がうわぁ…!!と歓喜の声を上げれば、八戒も中々の出来だと称賛。ななし1は照れながら笑った。

「えー、ずりぃ三蔵!!ななし1、俺には!?」

「良かったねぇ生臭坊主っ、女の子からのプレゼントなんて初めてなんじゃなーい??」
「黙れクソ河童」

「それでも、良かったですね、三蔵??」

「それで、みんなの奴がこれっ!!」

そんなニコニコとしたななし1が紙袋を持って三人の前に行くと、期待を高めて手を出す三人。おもむろにななし1から渡されたソレ。



「…………ななし1、なに、コレ。」

「可愛いでしょう??上手に作れたんだ〜!!」

三人の手に、一つずつ置かれた、ソレ。

片手で持って丁度良いソレと、悟空の目が合った。
まるで某アニメに出てくる、目が合って動いたら、無垢な女児に両手で叩き潰されたススの様な、ニット帽子の上に付いているアレの様な、キーホルダー。
八戒はグレー、悟浄は赤、悟空はピンク。


「……ななし1、僕達には、コレだけ…ですか…??」

「うん???三蔵のマフラー作った時に余ったヤツでつくったんだぁ…!!」

悪気も無くニコニコと答えるななし1に、八戒の口端が震える。
悟空は食べ物でもマフラーでも無いことに落胆はしたものの、何処に付けようかと前向きに考えているようで、悟浄に関しては指で摘まむ様に持ったソレを三蔵のアレと見比べてため息しか出ない。

「フッ………悪くねえ。ななし1、こっちに来い。」

「???どうしたの、三蔵……って、わっ……!!!」

そんな野郎三人を見れば、三蔵は近寄ってきたななし1の腕を引っ張り、自身の胸元に引き寄せる。そして少し余ったマフラーを、ななし1の首にも巻いてやる。

「…丁度良い長さじゃねえか。」
「う、うん…!!」

「お前らも、良かったな。俺のおこぼれを貰えてよ…。」

腕の中にななし1を収めた三蔵が、ニヤリと笑う。
まるで見せびらかす様に顔を赤く染めたななし1の身体に腕を回せば、三人から苦情が来ることは間違いないのだが、三蔵はソレが面白くて堪らない。この優越感と、彼女が自分の事を想い作ってくれた事に関しての行動だ。

「汚ねぇぞ!!この生臭坊主っ!!!!」

「俺もマフラー、欲しかったのによぉ…。」

「ななし1、良く見てください??渡す相手を間違えている…って事はありませんか…?」

「フン、負け犬共はさっさと寝ろ。俺はななし1の部屋で寝る。」

「えぇ…!?待ってよ三蔵、ベッド一つしか…!!」
「構わん。てめえ等もさっさと寝ろよ。」

ななし1の腰に手を回した三蔵は彼女の制止も聞かずに部屋を出ていく。
ドアを閉める間際、微かに振り向いた三蔵が不敵な笑みを浮かべれば、部屋に残された三人からの反感を買った事は言うまでもない。


end

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