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嫌味と応酬




「おや…??眼鏡はんと、ななし1はんやないの。」

「…おや、ヘイゼルさん。貴方もこの街にいらっしゃったんですか。」


声をかけられ、後ろを振り向けば、そこにはヘイゼルとガトが居た。


八戒とななし1は、今朝着いたばかりの街で、ななし1の買い物デートをしている最中。今は買い物も終わり、紙袋を腕に掛けて甘味処まで歩いている途中だ。

「二人で手ぇ繋いでデートでしょか。」

八戒が礼儀正しく挨拶すれば、ヘイゼルは挨拶もそこそこにななし1に駆け寄った。

そして、突然恋人繋ぎする二人の手を引き剥がすと、ななし1の手を両手で包み、胸元でギュッと力を込めるのだ。
ななし1は驚き、キョトンと目を丸くしたが、隣の八戒は引き剥がした男…ヘイゼルをニコリと笑って威嚇する。
二人の間に暗黒の雲が立ち込めると、バチバチと火花が散る。すぐ後ろに立っているガトは、火花が目に滲みる様で目をしかめていた。


「ヘイゼルさん、僕達の邪魔をしに、わざわざいらっしゃったんですか??」

「可愛らしいななし1はん。こんな僻みっぽい男とのデートよか、ウチとデートしまひょ。」

ヘイゼルがななし1の身長に合わせて屈めば、ニコリと綺麗な笑顔で彼女を誘う。突然の誘いにオロオロとするななし1が八戒の顔をチラリと見れば、彼の顔はまるで笑顔のテンプレートを張り付けた様な顔をしているではないか。

「絶っ対、眼鏡はんより素敵なデートにするさかい……ダメやろか…?」

生憎、ヘイゼルはななし1より何枚も上手だ。まるで子犬の様に目をうるうるとさせておねだりすれば、ななし1はソレを断れる程の技量が無いのを知っている。
ななし1は八戒との折角のデートだと思う気持ちもあるが、久々に会えた二人とも話がしたいと言う気持ちもあり、八戒に潤んだ瞳で見上げては嘆願するのだった。


「……ねぇ、一緒に行っちゃダメ、かな……??」

「………、」

残念ながら、そんな愛しい恋人の上目遣いに、八戒は勝てる訳がない。
隣でヘラヘラ笑う西訛りの男はとっっっても生け簀か無いが、優しいななし1の為に、ため息を着いて答えてやる。

「…分かりました。今回だけですよ??あぁ、ヘイゼルさん、行くならその汚い手をななし1から離して下さいね。」

「さ、善は急げと言いますさかい、はよ行きまひょ。ガト、これ持ちなはれ。」

ななし1の左手を恋人繋ぎした八戒がそう言うと、ヘイゼルは華麗にスルーしてななし1の腕に掛かった紙袋をサッと取る。その紙袋は、ガトに丸投げされた。
そしてヘイゼルもななし1の右手をそっと取ると、あろう事か恋人繋ぎを始めるのだ。

「っ…、ヘイゼルさん??先程僕の言った言葉が理解出来なかったのでしょうか??」

「いやぁ、可愛らしいななし1はん目の前にしたら眼鏡はんの言葉何て全く聞こえませんわぁ。」

大の男3人(しかも一人は大男だ)と、間に挟まれたななし1が横一列で街を歩く。
端から見ればチンドン屋の様な連中に、すれ違う人々がアレ何かと振り返る。
ななし1としては、ヘイゼルの恋人繋ぎには驚いたのだが、こんなにもワイワイとした雰囲気が楽しくて仕方ない。

「八戒、何だか楽しいね!!」

「……えぇ、……ななし1が楽しんで頂けるなら、良かった…です。」

「イヤやわぁ、デートはお互い楽しむモンでっしゃろ??毎度苦痛なデートしてはったんやなぁ。」

「えぇっ………、八戒…そうなの…??」

「少なくとも貴方達が居なければ僕はいつでも楽しいデートなんですがねぇ……」

「なんや酷い物言いやなぁ、ほんま。」

ななし1の頭の上でバチバチと火花を飛ばし合う二人は、笑顔を決して崩さない。
頭の上で何かチカチカと電気が走っている様な感覚に襲われていたななし1だが、両手は八戒とヘイゼルで塞がれているので、何だ何だと辺りを見渡していた。そんな彼女の姿を、ガトが哀れんだ様に見つめるのだった。


ーーーーー


「ほぉ、何やけったいな店やねえ。初めて入るわ。」

「ヘイゼルさんは庶民的ではないんですね。付き合う方は苦労しそうです。」

「……?何か良く分かんないけど、早く入ろうっ♪」

甘味処に着けば、店員に席を案内された。
しかし、それは新たな火蓋が切られるタイミングだ。四人掛けの席で、またも一悶着。それは誰がななし1の隣に座るかだった。

「ななし1はん、うち隣に座りまひょか。」

「いえ、ヘイゼルさんは相方のガトさんがいらっしゃいますので、僕が隣に座ります。」

二人の手を振りほどき、先に席に座ったななし1。その隣を死守する為に、再度男二人の火花が散る。流石に暗黒の雲と火花に気付いたななし1が、呆れた様にため息をつくと、こう言うのだった。

「私の隣は、ガトさんだから。二人は、そっちに座って!!」

「えぇ……!?正気ですか、ななし1!!?」
「そんなけったいな話、あらへんよ!?」

「いーの!!このテーブルじゃ狭いんだから、私とガトさんの方がバランス取れてるでしょ。二人とも何だかんだで体大きいんだから!!」

丁度良いでしょ??とななし1が笑えば、ガトの手を取り、隣の席に座らせた。勿論、火花を散らした男二人は、ななし1の前に座るのはどっちかで再度争うのだった。






「んぅ〜っ!!この白玉美味しいっ…!!」

「本当ですねぇ。上品な甘さで、クドくないです。」

「うち初めて口にしたわぁ、中々ええもんやなあ。」

結局、ななし1の目の前に座ったのは八戒だった。
白玉の乗ったあんみつに舌鼓を打てば、ななし1の顔は極上の笑顔を見せる。そんな彼女の表情を、目の前から見るのも悪くないと、八戒が微笑む。

「ななし1はん、コレも食べてみいな。」

「ん??あ、食べるー!!……………んー!!こっちも美味しい…!!」

「ヘイゼルさん、貴方そんなに貞操なしだとモテませんよ…??」

「ほんまかいな、ななし1はん気味悪がってる様には、見えへんけどなぁ。」

ヘイゼルが注文したパフェを、ヘイゼルがスプーンで掬えば、ななし1の口にあーん、と食べさせた。
必然的になる間接キスを見て、微笑んだばかりの八戒の顔に、珍しく眉間にシワが入る。そんな事を全く気にしないヘイゼルは、デレデレした様子でななし1を眺めている。

「………いい加減にして頂けますか……??」

「えぇ??うち、何か失礼な事しはりました??」

わざとらしくボケるヘイゼルに、八戒は堪忍袋の緒が切れる一歩手前まで来ていた。
しかし、愛しいななし1の目の前で喧嘩を始めるだなんてみっともない真似はしたくない。今日は彼女が喜んでくれるのなら…と我慢してきてはいるのだが、このヘイゼルはソレをおちょくる様な行動しかして来ないのだ。
しかし、そんな思考もななし1の行動によって打ち消される事に。

「ガトさんもちょっと食べなよっ!!…はい、あーんっ!」

「…………甘いな。」

あろう事か、ななし1はガトに自分のあんみつを食べさせているのだ。
悪意など全く感じないななし1の表情に、八戒は盛大なため息を着いたのだった。



ーーー



ななし1は甘味処から出ると、うーん、と満足そうに伸びをした。

「あ〜っ、スッゴく美味しかったね!!」

「もっとななし1はんと一緒に居たいんやけど、そろそろ時間やなあ。」

「あ、そっか…ごめんね、時間取っちゃって…!!」

「なに、ななし1はんが気にするコトやないよ。」

ななし1は少しだけ寂しそうな顔を浮かべると、ヘイゼルの胸元へと足を進めた。そして、彼女は自身の小指を立て、彼を見上げて笑うのだ。

「ヘイゼルさん、ご馳走さまでしたっ!!また遊びましょうね!!」

「せやなぁ。また、今度は二人っきりのデートしましょか。」

「………俺も居るんだが。」


ななし1とヘイゼルが指切りを交わすと、ヘイゼルは困った様に笑い、挨拶をする。
彼女の顔まで屈み、おもむろにななし1の耳に顔を近付けたヘイゼル。


「…………、」
「……!!!!!!!!」


いきなり顔が赤く染まったななし1の表情を見て、八戒の眉間に再度シワが寄る。
それでもななし1はヘイゼルが離れ歩き出すと、大きく手を振り、先を行く二人の男を見送ったのだった。


ーーーーー


「……さっき、何を言われたんです??」

甘味処からの帰り道。

ななし1と手を繋いで歩く八戒は、彼女に尋ねた。
決して快いものでは無かった光景に、八戒の心がキリリと痛む。しかし、ななし1は思い出したかの様にまた顔を赤らめるのだ。自分以外の誰かが、こんな顔をさせるなんて。


やはり、快いものでない。


しかし、そんなななし1は八戒の手を少し強く握り、いつもよりも密着する様に身体を寄せれば、上目遣いでこう言うのだ。


「八戒はんを、逃がしたらあきまへんよ……って言われて…」


照れた様に笑うななし1に、八戒は呆気を取られた。
何より、あの西訛りの男に一枚上手を行かれた事が何だか癪だし、満更でも無さそうなななし1の顔を見れば今日の事なんて帳消しに出来るほどだ。

それでも、

「……また遊びましょうね…は感心しないですねぇ。」

「えぇー、楽しいのに……八戒も一緒なら良いでしょ…??」

ななし1はどれだけ甘え上手なのだか。そんな顔で見られたら、断れる訳がない。
紙袋を持つ手で、八戒の服を引っ張るななし1は、まるで腕に抱き着いている様に可愛くて。
心配事は多々あるものの、彼女の今日の笑顔はまるで平和の象徴の様だった。だから、八戒は自笑する様に、ため息をつく。


「…………"たまに"…なら、良いですよ。」

「やったー!!次、いつ会えるかなぁ??」


惚れた者負けだから仕方ない。と、少しの皮肉を込めて。


end


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