買い物とすれ違い編
ななし1とななし2が一行の旅に参加してから、しばらくの事。
ななし2は持ち前のサバサバした性格で、割りと一行との会話が弾む様になっていた。
特に気が合う、と思ったのは悟浄だ。
一緒に悟空にイタズラを仕掛けたり、一緒に酒を飲んではバカ騒ぎをしたり、たまには真面目な会話をしてみたり、と多岐に渡って接する事が出来る間柄だ。
今日は街について、各々自由行動を取っている。
ななし2は街に買い物をしにななし1を誘おうと部屋を覗くと、テーブルで甘い物を食べながら彼女は悟空や八戒と元居た世界の話で盛り上がっている。
折角の八戒と話すきっかけに、水を差してはいけないな。と、ななし2は一人で街に出る事にした。
盛り上がる彼等に、出掛けてくると声を掛け、宿を出る。街に着いた時に八戒からもらったお金を折りたたみの財布にしまい、尻ポケットに入れた。
――――――
街は、想像していた通りの文化もあれば、近代的で元居た世界に似ている文化もある。
アニメの最後にやっている小ネタや、CDでしか聞いたことの無い小ネタが実際建物や看板に書いてあると、ななし2は新鮮味があって楽しいな、と足をどんどん進める。
一行が居ると中々買いづらい下着や服をあれこれ買いながら、ななし2はたくさんの紙袋を手にぶら下げていった。
―――――
買い物も一通り終わり、疲れた身体を休める為に甘味処に入る。
荷物を置いて席に付き、甘いオススメを店員に聞けば、丁度旬の枇杷を使ったあんみつがあると言われ、ソレください。とすぐに注文した。
出されたあんみつに舌鼓を打つと、宿に帰ったら三蔵にこの店を教えようと少し楽しい気分になる。
最後にお茶をすすり、食後の一服をしようとすれば、煙草が残りわずかな事に気付く。
そういえば、さっきの道を曲がった所に煙草屋があったな。
最後にそこに寄って、宿に帰ろう。ななし2は煙草の煙を肺いっぱいに入れるのだった。
―――――
昔ながらの煙草屋だなぁ。
元居た世界ではもう見かけなくなった番台の亭主に、煙草を注文する。
「おじさん、マルメンの4ミリカートンでください。」
「あいよ、ちょっと待っててね。」
出されたカートンを衣類の紙袋に一緒に入れて、お代を払う。お釣りを持ってくると番台から姿を消した亭主を待っていると、突如背後から腕が伸びてきた。
「姉ちゃん、一緒に楽しいコトしねぇか??」
肩を組まれ、ななし2の身体がビクッ驚いた。
声がした方を見れば、タトゥーを逞しい腕に入れた酒臭い男がななし2に色目を使っているではないか。
居るんだ、良く小説とかアニメに出てくるチンピラって。
今まで自身に降りかかった事の無い災難に、ななし2は淡々と言う。
「ありがとうございます。……すみません、楽しいコトはまた今度。」
戻ってきた亭主からお釣りをもらい、男の腕をサッと振りほどくと、それ以上は無視決め込んで宿までの道をスタスタと歩く。
「おーぃ、そんなに急がなくてもいーじゃねぇか。一緒に遊ぼうぜ??」
後ろで不機嫌そうに追いかけてくる男を無視し、来た道とは違うが、男を振りきる様に最初の角を曲がった。後は走ってどこかの角でやり過ごせれば…とななし2は考えたのだが、角を曲がった所で早歩きは失速する。
「あ、………悟浄。」
道の反対側から、二人の女の子を両手に侍らせて、こちらに歩いている悟浄の姿を見つけてしまった。
たまたま前を向いた悟浄と、目が合う。
「………ぉ……………」
「…………………。」
気まずさからななし2は他人のフリをし、見向きもせずに悟浄とすれ違う。声を掛けようとしたのか、小さく声を漏らす悟浄の声も聞こえないフリをして。
(……、わかっちゃいるけど、もやもやするなぁ…)
だって、あんな笑顔の悟浄、まだ見たことないもん。
チクリと痛む胸を無視しつつ、早歩きでその場を過ぎると、あろうことか追いかけて来た男が角を曲がって来た。
「おい!!俺の言うことが聞けねぇのか!!待ちやがれ!!」
男は二人分以上の道幅を取って歩く悟浄達にぶつかりながらすれ違えば、悟浄の侍らせて居た女からは、なんだアイツは!と文句の声が上がる。
悟浄は顔を後ろに向け、目線でやななし2の姿を追う。紙袋を揺らし早歩きで小道を曲がっていく彼女と、怒号を飛ばしながら歩くタトゥーの男。その姿を見て、何事かと煙草に火を点けるのだった。
――――――
これだけ大きな街なら問題ないだろう。
小道という小道を曲がりに曲がり、男を振り切った。
色々と面倒な事に気付いてしまった胸を落ち着ける様に撫で下ろす。
モヤモヤする胸にため息をつけば、宿に戻るための大通りに出ようと歩き始めたところだった。
「っとぉ………こんな所に居たのか姉ちゃん。」
「っ……………!」
もう少しで大通りに出る、といった小道の角で、先程の男と鉢合わせてしまった。
何だ、今日は厄日か??こんな狭い路地じゃ勝てないと腹を括り、ななし2は再度ため息を付く。
「……すみません、何がしたいんですか??」
「お、やっとその気になったのか??…………良いクスリあるんだ、一緒に楽しまないか…?」
壁に肘を付き、顔を近付けてそう言う男にななし2は眉間にシワを寄せた。
なんだ薬中か。一番厄介なヤツだなコレは。
ななし2は瞬時に考える。こんな小道で叫んだ所で、助けが来る事は無いだろう。助けが来たとしても、おそらく男に暴行されるのがオチだ。
こう言う場合は、一旦身の安全を最優先にしなくてはならない。
相手の瞳を見つめながら、ななし2は一か八か、演じきる事を決めた。
「そーゆーの、嫌いじゃないケド…どうせ使うなら、ベッドの上がイイんだけど…?」
「イイぜ。トッテオキの場所に連れてってやるよ。」
横髪を耳にかけ、妖艶な笑みを作れば、男は満更でもなさそうに下品な口を笑わせななし2の腰を抱く。
そう言うのが好きだと思ったぜ?と口にした男に、何だとこの野郎!と返したくなる気持ちを抑え、男と共に歩く。
案の定、大通りに向かって歩いてくれている。
このまま通りに出たら全力で逃げれば良い。あれだけ人が通る道なのだから、何とかなるだろうとななし2は考えていた。
しかし、二人は大通りに出る前に足を止める事になる。
「…………おっ楽しみ中悪りぃんけど、俺の女、さっきから追っかけ回して何ヤってんの……??」
「………ぁあ?何だテメェ…。」
後ろを振り返ると、そこには煙草を吹かした悟浄が壁にもたれ掛かっていた。
彼はそのまま二人に歩みを進めると、ななし2の腰に巻かれた男の腕を強く握って引き剥がす。
そのまま悟浄が煙草の煙を吐き出すのと同時に、ミシミシと男の腕が軋む音がする。
「っぐあぁ……あ"ぁ…っ!!!」
「……最初っからコイツの後ろに、俺居たんだけど?」
何勝手にしてんだ、と悟浄が煙草を男の手の甲にジュッと宛てがった。
鈍い痛みと威圧感に敵わないと思ったのか、早く言えよと捨て台詞を言い残して男は立ち去った。
二人きりになった路地裏で、悟浄は新しい煙草に火を点けると、肺いっぱいに煙を吸い込んで言う。
「いやー、アイツ本当、馬鹿で良かったわ。……怪我ないか??」
「あ、うん。ありがとう、助けてくれて。」
まさかの登場人物に呆気に取られたななし2だったが、先程の光景を思い出しては宿に戻るからと大通りに向かって歩き始めた。
「んじゃ、俺も帰るとするかぁ。」
「……お楽しみ中のところ、邪魔しちゃったね、ごめん。」
おそらく悟浄を待ってるであろう先程の二人を思うと、また胸がチクリと痛むななし2。
そんなななし2の姿を見た悟浄が一緒に帰るかと誘えば、ななし2はあの二人には混ざらないとキッパリ断りをいれる。
「いや、あの子達はそーゆーのじゃないんだけど??」
「そーゆーのって、どーゆーの??」
「…そりゃ今、お前があの男と楽しもうとした事だろ。」
「……あんなウソでも乗っかるほどバカで良かった。」
「はぁ??あれ、嘘なのかよ!?てっきり俺は悪趣味なヤツが好きなのかと思ったぜ…!?」
「んな訳ないじゃん…。悟浄だってあの二人は犯罪レベルだから。………まぁ男には色々あるんだろうけどね。」
一緒に宿に帰る悟浄に、持っていた紙袋を全て丸投げする。ちょっと疲れた、とポケットから煙草を取り出し、火を点けては深呼吸をするかの様に煙草を吸う。
「……意外と、男に理解あるのな。」
「……………まぁね。」
「……そーゆー、理解ある奴は好きよ俺。」
「……………どーも。」
好き、の言葉に直接意味はなくとも、彼に言われると、ななし2は何処と無く嬉しい様な、切ない様な気持ちになる。
武器も持ってない仲間を放って行ける訳がないだろう??アイツらじゃあるまいし。とななし2の肩に腕を組ながら歩く悟浄。
『仲間』。嬉しい言葉なのだけれど、悟浄の発言に他意を求めてしまいそうだ、とななし2は空を見上げた。
end
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