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刺繍とタコ




今朝着いた街は良い場所だった。

旅の必需品である食料はたくさん買えたし、美味しい昼食を皆でわいわいと食べた。
宿も全員がベッドで寝れるとは。ボロボロの格好だった一行は綺麗な身形になり、やっと一息付くことができるのだった。

昼食後、暇をもて余したななし1は、八戒の提案で、彼と一緒に街を観光することになる。
まさかのお誘いに驚いたななし1だったが、折角の二人きりなのだからと誘いに乗ったのだ。
しかし、いざ出掛けようとなると、全員で行った方が良いのでは…?と心配に駆られてしまう。


「……良いのかな??みんな置いてきちゃって…。」

「良いんですよ。たまにはこうやって観光しないと。旅の醍醐味じゃないですか。」

街を歩きながら、清々しい笑顔で話す八戒に、ななし1は少し照れ笑いをした。
彼女は、八戒の事が好きだ。
彼の一挙一動を目で追ってしまうけれども、告白なんて夢のまた夢だ。
もし勇気を出して告白し、断られでもしようものなら。彼女は一行の旅にこれ以上付いていけないレベルで落ち込むだろう。
ただ、そんな想い人、八戒からのお誘いはそんな事を気にする暇も無いくらい、嬉しさが勝るものだった。

「………、何だかデートみたいだね…??」

普段は絶対に言わないであろう言葉を口にし、ちチラリと八戒を目線で見上げるななし1。
八戒は何事かと目を丸くして、ななし1と目を合わせている。そんな表情を見ればななし1は咄嗟に冷静になり、言うんじゃなかった!!と後悔をし、自然と自身の腕に力が入るのを感じた。
たまたま誘ったのが自分だっただけで、何を勘違いしているんだ、といつも通り振る舞える様に自身を落ち着かせる。

「そうですね、デート…」

気持ち悪がってないかと再度八戒を見れば、ふむ。と考え事をしている様で。
ななし1は拒絶されるのが怖くて、どのタイミングで冗談だと言おうか迷う。

すると、八戒はななし1の手を突然握り、自身の指と絡め出した。
当然、突然の行為に今度はななし1が目を丸くする。ぱちくりと瞬きをして八戒の顔を見上げれば、彼はにこやかな笑みを浮かべて、こう言うのだ。


「ほら、デートと言えば、こうやって始めるのがセオリーじゃないですか。」

「…………!!」


"デート"と認めてくれた八戒の発言に、ななし1は顔が熱くなるのを感じた。

しかしいざ認められると、自分で言っておきながら、自分で緊張する原因作ってしまった!!と言う自身で上げたハードルを飛び越える事が出来ない気がしてならない。

(、これからどうしよう……っ!!?)

周りから見ても赤いと言われるであろう頬を、ななし1は手を繋ぐ反対の手で冷やすように覆うのだった。



――――――――――――



ななし1は、先程の不安とは裏腹に、何だかんだで楽しい観光になっている…?と感じていた。

八戒と二人で街を見ては、お土産屋さんで無駄にタペストリーを買ってみたり。野良猫に猫じゃらしを振っては、二人とも逃げられたり。
甘味処に寄っては久しぶりのフルーツにスプーンが止まらなかったり……と、満喫していたのだ。

今は、女性用の洋服屋にて、ななし1の服を選んでる最中で。


「…どーかな??八戒…?」

「えぇ…とても似合っていますよ、ななし1。」

見立て通りです。満足そうな顔をした八戒。

白地のフレアワンピースだが、裾に刺繍が仕立ててあり、大人可愛い。八戒の勧めで試着したのだが、案外ななし1もこの手のデザインが好きだし、我ながら似合っている。と思う。

普段、旅に出る格好では無い物は買わないタイプなのだが、久しぶりのお洒落にななし1はテンションが上がっている。
試着室から出れば、優しく笑う八戒に、ななし1も思わず笑顔になった。
そのまま鏡を見ながら裾を翻しているななし1の姿を見れば、八戒は店員にこれくださいとスムーズに支払いを済ましていく。

まさか服まで買ってもらえるとは思っていなかったななし1は、店から出れば大満足の表情だ。

「ありがとねっ!八戒っ!!」

「喜んで頂けて良かったです。」

ななし1が八戒を見上げれば、彼も笑顔で返してくれる。
本当に本物のデートな感覚がして、ななし1は嬉しくて堪らなかった。

が、そんな時間も長くは続かない。


夕暮れ時になり、宿に向かって歩く二人。
あの角を曲がれば、もうすぐ宿に着く…という時には、ななし1は少し寂しい気分になる。

(もっと、この時間が続けば良いのに…)

口には出せないワガママを俯き気味に口だけ動かせば、八戒はそんな彼女を見ては小さなため息を付く。


「…ななし1、もう宿に着いてしまいます。」

「……うん。」

「今日のデートは、ここまでですが…。」

(分かってはいたけど……言われると、余計寂しくなる…)

八戒の顔を見ることなく頷くななし1に、八戒は困った様に眉尻を下げて笑う。

(先程までの笑顔は何処へ忘れてきたのやら。)



宿に向かう為の角を曲がる時。


「また、デートしましょうね??」


八戒はななし1の前髪を掻き分けると、こう囁いてはななし1の額にキスをした。

「!!??」

柔らかい感触に、挙動不審な程驚くななし1。
八戒はそんなななし1を見ると、を口に当てて無邪気に声を出して笑いが止まらない。
方やキスをされたななし1は、自身の額を手で抑えてはドキドキする胸の鼓動が止まらない。
呆気に取られて彼を見るのだが、此方のペースは崩すのに、自身のペースは乱さない八戒に、少しだけ悔しさが湧いてくる。

一頻り笑った後は、ななし1の手を引っ張ると、さぁ行きましょう。と振り返りながらななし1を見る笑顔の八戒。


ああ、私はこの笑顔が堪らなく好きだ。
やはり、彼の一挙一動から目が離せないのだな、と思うななし1だった。


「ゆでダコみたいな顔…みんなに、いじられちゃうじゃん…」


end

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