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初めての想いと君の想い







ここのところ、その街では周辺の悪天候が続き、近くの山で土砂崩れが起きた。
その為、流通している食材や物資を詰んだ馬車が足止めを食らい、中々街に来ないのだと言う。

物資が買えない以上、長期滞在を余儀なくされた三蔵一行は、比較的大きな街で宿も久しぶりに個室が人数分取れたのもあり、普段の戦闘や野宿ばかり日々をリフレッシュするように過ごしていた。


そして3日が過ぎた、ある日。



「あれ?ななし1ちゃん??」

「…あ、悟浄さん…?」


悟浄は、八戒から頼まれた買い出しを終え、宿に帰る途中、酒の種類が多く気に入った居酒屋で働くななし1を見つけ、声を掛けた。
ただ、いつもの姿とは違う彼女に、悟浄が声を口を開く。


「……目ぇ、どうしたんだ?」


ななし1の目を指差す。

彼女の姿は、買い物したであろう紙袋を抱えて困った様に笑っている。
そんな片目には眼帯が巻かれているのだ。
不思議そうな顔をして聞く悟浄に、ななし1は昨日ぶつけちゃって…とその片目に付いている眼帯を押さえながら、更に苦笑いをする。


「、悟浄さんも…買い物?」

「あぁ、連れに頼まれてな。」


可愛い顔にキズを残さない様に気を付けろよ。と悟浄が心配そうに言えば、肩をすくめて笑う彼女。二人は肩を並べて歩いた。

聞けば、二つ目先の角までは道が一緒だ。二人は他愛もない話をしながら歩き、角に差し掛かれば、そのまま別々の道を行くのだった。




「いらっしゃいませ〜!」

夜になり、今日もななし1の働く居酒屋に顔出す悟浄。
とりあえずビールを注文すれば、空いた席に着いた。

程無く、お待たせしました!!とビールをテーブルに置く店員の女の子。駆けつけの一杯を飲みながら店を見渡せば、悟浄はななし1の姿が無い事に気が付き、女の子に話しかける。

「なぁ、今日はななし1ちゃん、休みなのか??」

「え??えぇ、それが、無断欠勤なんです。……彼女の場合、よくあるんですけど…彼氏にちょっと問題があって…」

人目を気にしてこそこそと話す店員に、悟浄は耳を傾ければ、その話をビールと一緒に流し込む。


悟浄は今日、なんとなくだが、これ以上飲む気になれない。と早々に切り上げると会計を済まし店を出た。
かと言って、そのまま宿に戻る気にすらなれなかった悟浄は、ブラブラと夜の街を歩く。
まだ時間が早いのか、酔いが足らないのか、いつもであれば外の空気がとても気持ち良く感じるのに、今日は全くその気配がない。

もう一つの原因としては、店で聞いたあの話が、脳裏でこだまするから、だろうか。

胸糞悪い気持ちを払拭しようと、道端にあるゴミ箱を蹴り飛ばす。
ガンッと重たい音が響き、蹴られたゴミ箱が隣の木箱に当たってミシミシと鳴る。
同時にきゃっ、と声も聞こえて。

猫でも居たか?と目を丸くした悟浄が、木箱の影を覗くと、そこには、頭を抱えて小さくうずくまり、震えるななし1が居た。


「ごめんなさい…、ごめんなさい…!」


まるで呪文の様に言葉を繰り返す。
そんな彼女を見た悟浄は、幼い頃の自分が、フラッシュバックする。


赤髪が憎い。と謂われつづけた、幼き日々。


ギリリと歯を食い縛り、気が付けば、悟浄はななし1の手を引くと、そこから逃げ出す様に走り出していた。



ーーー



宿の部屋に、ななし1を連れ帰った悟浄。
ハァハァと息を切らしながら、未だにななし1は震えている。その顔は恐怖しか感じていない顔だ。



「……もう大丈夫だから、な?」

ななし1は部屋の隅で動かない。

そんな彼女に悟浄は、目線まで腰を落とすと優しく頭をポンポンと叩く様に撫でた。
しかし、ななし1は悟浄の手すら恐怖に感じてしまい、固く目を瞑り、唇は血が滲む程噛みしめてしまう。

「……あっ、ご…ごめんなさい、その…殴られるかと、思って…っ、」

オロオロと目線を泳がし、ガタガタと身体を震えさせながら弱々しく言葉を紡ぐななし1を、悟浄はたまらず抱きしめた。

突然の事にななし1は身体が跳び跳ねて驚くが、普段された事の無い優しさと熱に、戸惑いが隠せない。

悟浄はななし1の身体をそっと抱きかかえると、ベッドの縁に優しく座らせる。
不安そうな瞳で見上げる彼女の頬を指でなぞれば、自身の顔を近づけてそのまま唇を合わせる。



触れるだけの、優しいキス。



「、ご、悟浄さん…私、あの……」


ななし1は言葉を濁し、悟浄を見上げた。
悟浄は彼女の言葉の意味を理解すれば、大丈夫だ。と一言だけ言うと、彼女の服のボタンに手をかけた。


一枚ずつ、大切に。
優しく脱がせていけば、見えてきた彼女の身体。それは悟浄の想像を超える、酷いものだった。

綺麗な肌に焼け着くように残る、アザや煙草の焼跡の数々。
普通、であればあり得ない現実。
目を背けたくなる気持ちを我慢して、悟浄が顔を歪める。
この状況を作った男を、殴り殺したい感情にすら囚われてしまいそうだ。
俺だったら、絶対にしない、と大声を上げて。


「…ビックリ…した?、……気持ち悪い、でしょう??」


その声に、ハッとする。

顔も分からない男に苛立つ気持ちを拭って、何でもない。とななし1の身体にキスを落とす。

身体のキズ一つ一つにキズをする悟浄に、ななし1はくすぐったそうに身をよじる。


胸元にキスをする悟浄と目が合えば、そのまま優しく押し倒され、二人はベッドに静かに沈んだ



ななし1が感じたのは、優しい快楽。



ーーーーーーーーー



目を覚ませば、優しい腕に抱かれていた。
まだ数刻しか経っていないのを確認すると、ななし1はベットからゆっくり抜け出しては身支度も程ほどに、ドアノブに手をかける。


「……行くなよ、ななし1。俺がずっと守ってやるから。」


起きていたのか。
悟浄はななし1の腕を引くと、後ろから優しく抱きしめる。
傍に居てくれないか、と優しく囁いて。しかし、ななし1は下を向いたまま無言で首を横に振った。

「…っ、俺じゃ、ダメか?」

ななし1を抱きしめる腕に、自然と力が入る。

そんな悟浄の言葉に、ななし1の身体がピクッと動く。
再度、下を向いたまま首を振るななし1の肩が、小さく震えている事に悟浄は気付く。

ななし1は涙が溢れてしまいそうだった。

悟浄から囁かれる言葉はどれも優しくて。
きっと手を伸ばせば、悟浄はその手を離さない。

それが、分かっているから。


「……ダメ、私はっ、一緒にっ、行けない…」


食い縛る様に、紡がれた言葉。
ななし1は悟浄の胸に身体を向けると、そっと両手で胸板を押す。少しだけ放れた腕の隙間から、するりと身体を抜け出して。


再度、ドアノブに手をかけると、顔だけ振り返る。

月明かりだけのうす暗闇で、ななし1は寂しそうに笑った。




ーー悟浄、ありがとう。



部屋のドアが静かに閉まる。

一人になった部屋で立ち尽くす悟浄の目から、一粒の涙が流れた。

彼女の後ろ姿が、揺蕩う海月の様に見えて。



END

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