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虚しさと現実



今日は、いつになく良い気分だ。


悟浄は上機嫌である。
西に向かう途中で寄った大きな街には、彼が好きな物が全部揃っていた。

それだけじゃない。ツキが回ってきたのかと言うほど、幸運続きなのである。


たまたま開催していた催し物で置いてあったガラガラの抽選機を回せば、高級ディナーに当選。
そのままブティックでスーツを見立ててもらえば、優雅に店を出る。


カジノに行けば、ルーレットでシングルナンバーの大当たり。
そのままブラックジャックをプレイして、連続スプリットで両方ブラックジャックのファインプレー。
ディーラーもプレイヤーも、彼のカードに釘付けだ。

大量のチップを還元すれば、セクシーな美女達が悟浄を囲む。
一人の女が悟浄の頬にチュッとキスをすれば、まるで取り合いの様に私も私もとこぞって悟浄にキスをした。これぞ男の夢だ!!と悟浄は頬を緩ませた。
夜景が一望出来るVIPルームでシャンパンを開け、美女を囲んでは今日は宴だと酒をグイグイ飲んで行く。

美女に囲まれる悟浄は、高笑いが止まらない。



高級ディナーのホテルに着けば、特等席とも呼べるテーブルにボーイが案内してくれる。
テーブルに、イスが二つ。

運ばれた食前酒を一口飲めば、これは美味いと驚いた。楽しいカジノに、美女に美味い酒と最高級ディナー。今まで苦労していた人生が嘘の様だ。

此処にアイツが居たなら、もう申し分無いほど幸せだ。


「………あ……?」


悟浄は、ふと思う。そう言えば、この向かいの席には誰も来ないのか?と。


折角、もう一人分のテーブルセットも用意されているのに、一向に誰も来やしない。見渡せば、他のテーブルでは紳士と淑女が素敵なディナーを楽しんでいるではないか。


なのに、自分は一人きり。

今まで楽しかったのに、悟浄は急に虚しさが込み上げた。何かが足りない。はて、それは何だったか。

カジノに、美女に、美味い酒に、高級ディナー……

指を折りながら数える悟浄の前に、見知った顔がやってくる。


「………っななし1…!?!」


背中と胸元を広く開いたマーメイドラインのドレスに身を包むななし1が、笑顔で歩いてくる。
いつもは下ろしている髪の毛をアップスタイルにし、赤く色付いた唇が弧を描く。


そうだ、俺に足りなかったのはコレだ。


思わず席を立ち、彼女を抱きしめ迎えようとすれば、その腕は空をきる。



悟浄の横を、華麗に通りに過ぎるななし1。



悟浄は彼女を目線で追うと、彼女はそのまま奥のテーブルへ行ってしまう。そこには見知らぬ男が席に着いていて、ボーイが椅子を引けばありがとう、とエスコートされていく。
悟浄の好きな笑顔を、ななし1は他の男に向けている。

まさか、こんな事があるだなんて。



「………っておい!!!待てよ…っ!!!」



急いで手を伸ばすと、手の先に見えたのは天井だった。

ハァハァと息切れをする身体と、突然変わったシチュエーションに理解が出来ず、悟浄は目をキョロキョロと動かして部屋を見渡す。
先程までのアレが夢だったと気付くまでには、まあまあな時間を要した。

(………ったく、なんて夢だ………)

額の汗を手の甲で拭うと、ベッドを抜け出し部屋を出た。



ーーーーー



水を飲もうとキッチンに行けば、まだ太陽が登っていないのにも関わらず、明かりが点いている事に気付く。
見れば、悟浄がよく知る彼女がいそいそと動いているではないか。


「………ななし1??…何やってんだ??」
「!!!!!ご、悟浄…!?……どうしたの?こんな時間に…??」

慌てふためく様子のななし1に、悟浄は顔をしかめた。

「……何、こんな時間から化粧なんかしてやがんだ…?」

夢に見た姿ではないものの、いつもすっぴんに近いななし1が何故か化粧を決め込んでいる。
いつもであれば、可愛いだとか綺麗だとか賛辞を述べる悟浄なのだが、今の彼にはそんな余裕は無かった。

悟浄の脳裏に、夢で見た彼女と、今目の前に居る彼女が重なってしまう。他の男に、笑みを浮かべるななし1の姿が。
ななし1が急に居なくなってしまう様な気がして、思わず悟浄はななし1を抱きしめる。

「!?……どうしたの、悟浄……??」

ななし1が顔を上げれば、悲痛そうに顔をしかめる悟浄の姿。ななし1は何事かと驚きもしたが、今日はやけに素直に甘えてくる悟浄の頭に手を回し、ポンポンと撫でてやる。
悟浄はそのまま首筋に顔を埋め、ななし1を抱きしめる腕に力がこもる。

「…………怖い夢でも見たの??」
「……お前が、足りない…夢だった…、」

よく意味が分からない言葉を紡ぐ悟浄だったが、ななし1は深く聞かず、悟浄の頭を撫で続ける。

「………ねぇ、悟浄??本当は今日の夜に、って思ってたんだけど…顔を上げて??」

「………、?」

ななし1の首筋から離れる悟浄は、どこか虚ろな瞳をしている。
そんな彼を気にしてかどうか、ななし1は優しい笑みで口を開く。

「お誕生日、おめでとう、悟浄。」

悟浄の渇いた唇に、ななし1が口付けた。
突然の事に目を見開いた悟浄は、動く事が出来ず、彼女にされるがままだった。ななし1が唇を離せば、悟浄は彼女の肩にそっと手を置いた。

そうか、今日は誕生日か。

照れた様に笑うななし1が、キッチンを見渡しながら口を開く。

「今日の夜にお祝いしたくて、内緒でケーキ作ってたんだけど……悟浄珍しく早起きするから隠せなかったよ…。」

サプライズにしたかったんだけどな、と苦笑いするななし1に、悟浄は心が温まっていくのを感じた。

夢に見た足りない何かが、目の前にある幸福。

どんなに派手で楽しい物よりも、本当に欲しいものは違うもんだとゴチるまで、あともう少し。


ーーーー


「ひどい汗だね、シャワー浴びてもう一回寝たら??」
「……なぁ、一緒に入らねぇか…?」

「え、……(せっかく、化粧したのに…)………良いよ、お風呂、沸かそっか。」



end

2017/11/09 悟浄HappyBirthday!!

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