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甘えん坊と散髪




ーーーシャリ、シャリ、

「悟浄?そのまま動かないでね?」

「うぃーっす。」

ーーーシャリシャリ、シャリ、


綺麗な赤が、床に落ちていく。



久しぶりにゆっくり出来そうな街にたどり着いた一行は、早々と宿を取り各自、自由行動に出た。

ななし1はすぐには街に出ず、空いている大浴場でゆっくりと風呂に浸る。この時間で良かった、とななし1は大きく伸びをした。
中々、これだけの大浴場がある街にたどり着いた事は無い。足を伸ばして浸かれる…むしろ、泳げるくらいの広さがあるとは、と感動するレベルだ。

普段は使わない様にしているヘアパックや、中々出来ないオイルマッサージもこれだけ広い場所でゆっくり出来れば、さぞ癒される事だろう。

ウキウキのななし1は数時間かけて風呂を満喫するのだった。



風呂から上がり、髪の毛をドライヤーで乾かすと、部屋に戻ったななし1はおもむろにハサミを取り出した。
そのまま、髪の毛を人差し指と中指で挟み、毛先を整えていく。
旅をしていてもある程度美容には気をつかうが、どうしても髪の毛だけは雨や風で痛んでしまう。

床に敷いた新聞紙に、パラパラと髪の毛が落ちた。



ーートン、トン


「ななし1、いるか??」

「どうぞー。」

来客に適当な返事を返せば、ドアノブが開き、部屋に入ってくる。
そんな来客を見向きもせず、ななし1は毛先にハサミをいれ続けた。

「あれ、ななし1髪の毛切ってんの?」
「そー、毛先痛んじゃってさ…」

シャリ、シャリ、

来客、悟浄が邪魔したかと聞けば、ななし1はんーん。と曖昧に返事する。やはり髪の毛を切る手は止まっておらず、それを見た悟浄は器用にやるもんだと椅子に逆座をした。背もたれの縁に肘を乗せると、胸ポケットから出した煙草に火を点ける。

悟浄の前で、真剣に自身の髪の毛と向かい合うななし1の姿を見て、可愛いヤツだと一人ゴチる。

煙を深く吸って吐き出せば、折角の逢瀬に構ってくれない恋人に構って貰える方法を思い付く。


「………なぁ、俺にもヤってくんない??ソレ。」
「……えぇ?良いけどちょっと待ってね??」


ようやく視線だけでも向けたななし1に、悟浄はニヤリとほくそ笑んだ。
新聞紙を敷いておくよう言われれば、何時でも彼女が来れる様にさっさと新聞紙を敷き詰める。
そんな彼の後姿を見たななし1は、声には出さないものの、可愛いヤツだと微笑みを浮かべた。


「悟浄〜、お ま た せっ!」
「待ちくたびれたぜ。」

自身の手入れが終わったななし1は、椅子に座る悟浄の元へ来た。
そっと悟浄の髪をかき上げ、クロスを首に巻いてやる。目を閉じて少し首を上げてくれる悟浄の額にチュ、とキスをすれば、先手を取られたと悟浄が悔しがる。

そんなこんなのやり取りを経て、冒頭の会話に戻るのだ。



「…悟浄の髪の毛は綺麗だね、私は好きよ。」
「……お前に好きって言われちまうと俺が嫌いだって言い辛いじゃねーか…。」
「誰しも自分の嫌いなトコロなんてあるんだから気にしないのっ!!」

悟浄の髪の毛にサラサラと手櫛を通すななし1が笑う。そのまま悟浄の前に立ち、彼の髪の毛を額から後頭部へと撫でる様に流す。

「…この触角はどうしようか?アイデンティティーだもんね?」

「うるせー、ソイツはほっとけ!」

そのまま拗ねる様にななし1の腰に腕を回し、自身へと引き寄せる。両膝の間に彼女の足を挟ませ、更に腰を引き寄せると彼女の胸元に顔を埋めた。
突然の事に驚いたななし1だったが、胸元から顔を埋めて話さない悟浄の頭をポンポンと撫でる。

「……………………」


しばらく悟浄が動かない事を確認したななし1は、そのまま後頭部へ頭を回し、悟浄の後ろ髪を整えていく。抱きつかれた状態でやり辛さはあったものの、愛しい熱に笑みが止まらない。



「………悟浄?こっち、向いて??」

「…んだよ、」

あらかた切り終われば、ハサミをテーブルに置く。ななし1が悟浄に呼び掛け、悟浄が彼女の胸元から顔を上げれば、ななし1は悟浄の前髪を再度撫でる様に流し、額にキスをした。
口が離れれば、悟浄がまだ足りないと言わんばかりに、顔を近付け唇へのキスをせがんでくる。


「…フフッ、いつもと逆みたいね。可愛い、悟浄。」
「……そんな、笑うもんじゃねぇぞ、コレ。」


そっと唇を合わせ啄む様にキスをすれば、お互いの頬を撫で合い、舌を絡める様に何度もキスをする。

「……ベッドにでも行く…??」

その誘いを、待ってましたと言わんばかりにななし1の身体を撫で回す。久々に二人っきりになれるの楽しみにしていたんだ、と悟浄が不敵な笑みを浮かべてはななし1の唇をペロリと舐めた。



end

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