パフェと歩幅
「三蔵〜!!スッゴい美味しいよ、食べてみて…!?」
三蔵の目の前でパフェを頬張るななし1。
昨日までは疲労と飢えや諸々で変な顔になっていたのに、今の顔は活力に溢れ、幸せそうな顔。
女は笑顔が一番だと誰かが言っていたが、実にその通りだと三蔵は思った。
まあ、常に笑顔で居られては飽きるとも思うが、目の前の笑顔を見れば、心が温まる様な気持ちになるのだから不思議だ。
そんなななし1が三蔵の口元に自分のパフェを食べさそうとスプーンを構えているのだが、三蔵は眉をしかめて周りを見る。
並んでいる時から三蔵は視線を感じていたが、店内は殆どと言って良いほど女性ばかりだ。案の定、容姿端麗な三蔵を周りの女性達が羨ましそうに見ているのだ。
そりゃ、彼女のパフェも美味そうだ、ちょっと食べたいと本心では思っている三蔵ではあるが、この環境でのあーんは抵抗がある。出来る事なら二人きりでやりたい。それでも、三蔵の目の前で恥ずかしげも無くニコニコと首を傾げているななし1を見れば、彼はため息を一つ吐くと欲に負けたと悟り、スプーンを口に含むのだった。
そしてやはり、ざわめく店内。
「……ウマい。」
「でしょっ!?こし餡とソフトクリームの相性が凄くて〜っ!!」
まるで好きな芸能人にうっとりする様な乙女の顔をするななし1に、三蔵が小さく笑う。確かに、パフェは美味い。それよりも、目の前で表情をコロコロと変えるななし1が面白いと思う三蔵。
「三蔵のは??美味しい??」
「………あぁ、ウマい。…食うか?」
「うんっ!!」
ほれ、とななし1の口元に出されたスプーン。
三蔵が顎で食えと合図をしているが、ななし1は固まった。
ふと周りを見れば、多くの客がこちらを…いや、三蔵の一挙を顔を赤らめて見ているではないか。
目の前のパフェも、もちろん美味しそうだし食べたいのだが、この羞恥プレイはどうなのだろうか。ななし1は顔にどんどんと熱が集まるのを感じ、頬を隠す様に手を添えれば、三蔵を少し恨めしそうに見る。
「……何か、恥ずかしい…。」
「テメェがさっき俺にやった事だろうが。」
「…三蔵も恥ずかしかった…?」
「良いから黙って食え。溶けるぞ。」
「、うぅ……、」
少し強引に口元にスプーンを当てられれば、顔を真っ赤に染めたななし1が口に含む。先程、何気なくした行動はされる側になるとこうも恥ずかしいものなのか。
気にしてなかった周りのざわついた歓声と、うるさい心臓の音が、ヤケに耳に響く。
(……三蔵も、同じ気持ちだったのかな…?)
ななし1の目の前で平然とパフェを頬張る三蔵があまりにも冷静なのが悔しくて、ななし1は自分のパフェを大きな口で頬張るのだった。
ーーーーー
「あー、恥ずかしかった……っ!!!」
店を出て歩けば、ななし1は未だにうるさい心臓を黙らせる様に胸に手を置いた。大きく深呼吸をすれば、会計を済ませて出て来た三蔵に頭を小突かれた。
店に並ぶ人々を横目に歩けば、メニューよりも三蔵を目で追う女性達。
「三蔵、モテモテだったね!!」
「…テメェは何馬鹿な事を言ってんだ。」
「だって、レジの人も、ホールの人も、お客さんもみんな!!三蔵の事、羨ましそうに見てたんだよ!?」
「んなもん、俺には関係ねぇ。」
肩を並べながら歩こうとすれば、三蔵があまりにもペースを早く歩く故にななし1がヒョコヒョコと小走りになってしまう。
一生懸命付いていこうとするのだが、中々追い付けない。
「ちょ、待ってよ三蔵っ!!」
「うるせぇ。さっさと歩け。」
制止を求めても、彼には届かない。そしてどんどんと広がる二人の距離に、ななし1がもう!!と追いかけるのをやめた。
折角、二人きりで出掛ける事が出来たのに、三蔵は機嫌が悪くなるといつもこうだ。
店に行くまでは顔には出ないものの、雰囲気がウキウキとしていたのに。今は何だか刺々しくて。最後まで頑張って付き合ってくれても、良いじゃないか。ワガママな男には愚痴の一つも言いたくなる。
「…三蔵のバカ。」
「ほう、誰がバカだと?」
「ぅぇ、聞こえてた…?」
「残念ながら、な。」
いつの間に立ち止まり、ななし1が追い付くのを待っていた三蔵。
煙草を片手にななし1を見下ろす姿に、ななし1の口端が引きつった。
このままハリセンコースか。とななし1は考えたが、意外にも三蔵がななし1の手を取り歩き始める。
「……三蔵…?」
「……次はあんな恥ずかしい真似しねぇからな。」
「……え……、」
目を丸くしたななし1が三蔵を見上げれば、前を歩いているために殆ど顔が見えないのだが、何処と無く見える頬と耳が赤くて。
そんな三蔵の姿を見れば、ななし1の心臓は再度うるさくなっていく。
「……三蔵、こっち向いて。」
「断る。」
「…三蔵、ぎゅって、したい。」
三蔵を握る手を握り返し、いつもは言えない気持ちを出してみる。
三蔵の姿を見ながら言う事が出来なくて、目線を反らしてそう言えば、三蔵がピタリと足を止めた事に気付かないで、軽くぶつかった。
その拍子に舌を噛みそうになったが、何事かとななし1が三蔵を見上げれば、三蔵もななし1に顔を向けていて。
「………それは、部屋に戻ったら、な。」
「………!!」
不敵に笑った三蔵が、また歩き出す。リンゴの様に顔を赤くしたななし1の手を引っ張って。
先程よりもゆっくりと、ななし1に合わせたスピード。
そんな先程些細な事にも気付いてしまえば、彼の優しさにときめきが止まらない。
たまには、こちらが振り回してみたい!!と思うのだが、結局最後は彼に振り回されっぱなしだ…とななし1は悔しい様な、嬉しかった様な気持ちを隠す様に、自分の前髪を弄るのだった。
「…俺は好きな奴に好かれりゃあ、ソレで良い。」
「〜〜っ、ホント、ずるい!!」
ほらね。
end
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