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素直な君と離れる手


ドタドタと足音が聞こえれば、三蔵の部屋の扉がバンッと開かれた。

足音からして、誰が来るのかは察しはついていたが。案の定、頭に浮かんだ本人の到来。静かに新聞を読んでいた三蔵は、深くため息を付いた。


「三蔵〜っ!!ちょっと聞いて!?さっき買い物に行ったら、八戒ってば女の人にデート誘われてたの!!」

「…なぜそれを俺に言う。」
「だって…悟浄は居ないでしょ??八戒本人には言えないでしょ、悟空は…論外でしょ!??」

「知るか。」

断りも無しにズカズカと部屋に入ってくるななし1は、よっぽど肝が座っているかもしれない。指を折りながら数えると、三蔵とテーブルを挟んだ向かい側にストンと座り、一人で勝手にうな垂れている。

「八戒、断ってたけど…やっぱりモヤモヤする〜っ!!…八戒って、どんな人がタイプなんだろ??」

「知るか。」

「私みたいなのはダメかなぁ〜、」
「…。」

「仲間としてしか、見てないよね?」
「……。」

「むしろ、女として見てない??」
「………。」

「聞いてる??ね〜、三蔵??」
「…………?あぁ、」


「ねー、三蔵はどんな人がタイプ??」


新聞を読む三蔵に向かい、独り言の様に言う。

足を組み新聞から目を離さない三蔵と、ななし1はテーブルに両肘を着き、顎を手のひらに乗せている。
三蔵は何を言ってるのかと新聞から目を離し、冷ややかな目をしてななし1を見れば、彼女はねーねー!!と答えを急かしてくる。
無邪気な笑顔を見せてくるななし1に、三蔵は呆れた様に口を開く。


「…うるさくねぇ奴。」

「え、それ、私じゃん!」

「……寝言は、寝て言え。」

わざとらしくボケているななし1に、馬鹿かお前は。とペチンとハリセンをお見舞いしてやると、三蔵は再び新聞に視線を戻す。
三蔵は今日、一人で静かな時間を過ごす予定だったのだが、目の前でニコニコと笑う彼女が居ては無理だろうと悟ろうとしている。
ただ、それも悪くないと思っているのは、三蔵は秘かにななし1の事を想っているからだ。

そんな中、三蔵の心境なんざ露程も知らないななし1は、人で例えるなら…、と考えては、閃いた!とでも言うかの様に目をキラキラさせて三蔵に再度話しかける。

「例えば……八戒みたいな人??」

「男で例えられても分からん。」

「…難しいー!!」


ーーだって、周りに女の子居ないんだもん。

そう呟いた彼女をチラリと見れば、苦笑いでどこか寂しそうで。
本来であれば、年頃の女性だ。女性同士で集まれば、恋愛だのファッションだの華のある会話の一つや二つするだろうが、三蔵にとっては、そんなもは邪魔なだけだと思ってしまう。
ただ、視線の隅で寂しそうなななし1を見ると、胸がもやっとする思いになるのは事実だ。

三蔵は別に、彼女にそんな顔をさせたい訳じゃない。


「…静かな人かあ、きっと頭良くて、綺麗な人だよね。」

だって、イケメンの三蔵が好きになる人だもんね。
あははと苦笑しながら話すななし1に、まるでトゲが刺さったみたいだと胸が騒ぐ。

「……静かなら良いって訳でもねぇ。たまにはテメェみたいに騒がしくねぇと、ペースが狂う。」

「???言ってる意味が、分からない…??」

「ッチ……馬鹿にはまだ分からなくて良いんだよ。おい、お茶。」

その顔やめろ、と言葉を続けた。
残念な事にその寂しそうな顔をやめたはやめたが、想い人である彼女の鈍感さには呆れて物も言えなさそうだ。まるでこっちの言葉の意図を読み取っていないのだから。
ペースを狂わされてるのはこっちか。と三蔵は舌打ちをし、 話を反らそうとお茶を要求するも、興味深々のななし1が話を掘り下げてくるではないか。


「…えー、教えないとお茶、持ってこないよ??」

「……ッチ」

どこかの誰かみたいに腹黒くなっているような気がするななし1に、舌打ちとため息しか出ない。

ただ、今このタイミングは彼女を口説くのには丁度良いと三蔵は考える。
正直、自身とどこかの誰かの腹黒さは、良い勝負かも知れないとは思うが、こーゆー物は早い者勝ちだろう。と口の端を上げた。

勢いに任せた口説きなんて、いささか不格好だとは思うのだが。

「……馬鹿でも分かる様に言ってやる。」

「うん??」

「テメェがもう少し慎ましく出来りゃ、良い女だって言ってんだ。」





「つつましく……?何それ、どういう意味??」


残念。伝わらず。

もちろん、三蔵にとってはまぁまぁな口説き文句なのだが、残念ながらこんな会話で想いを汲み取れるほどななし1は頭が回らない。
恐らく、その辺の女性に同じセリフを聞かせたとしても、愛を感じる女性の方が断然少ないだろう。
しかし、三蔵は好きだの愛してるだの口に出せない性分なのだ。仕方ない。

そして、三蔵は自己中すぎてそれに気づいてない。(むしろ気にしてないレベルだ。)


「………ハァー、ここまで馬鹿だといっそ清々しいな…。」

「もっと、分かるように!!」

「……俺の前でも、少しは女らしくしてろってコトだ。」


何それ!?と頬を膨らまして拗ねるななし1を見ると、やはり分かっていない。
三蔵はななし1の腕を引っ張ると、自身の身体にななし1を引き寄せる。
テーブルが邪魔でも関係ない、その薄い唇を、ななし1にぶつける様な、乱暴なキス。


「!!!???」


ななし1はテーブルから乗り出すように前のめりになり、背伸び状態の体はバランスが取れず、テーブルと三蔵に倒れそうになるのを必死で食い止める。


「…フン、少しは静かになったじゃねぇか。」

「〜〜っ!!私、お茶持ってくる……!!」


最後はカプリとななし1の唇を優しく噛んでから、口を離す。
驚きと焦りで、ななし1はこの場から逃げようとする。しかし、三蔵の手を振り払おうとするも、三蔵の力に敵わない。


「……行くなよ。」


そう言って、強い目線で見上げられれば、猛獣に威嚇されたようでななし1は動けない。
そのまま、三蔵が立ち上がり、ななし1を胸元へと引き寄せる。
ななし1は自然と身体が強ばり、後ろに下がろうとするも、テーブルの縁に尻が乗る形に挟まれてしまい、動けない。


ガタガタ、と揺れた、木製のテーブル。



ななし1は、三蔵の紫色の瞳から目が離せない。

急な展開と、見つめ合ってしまう瞳に、息をする事すら忘れてしまう程で。
不思議な感覚に囚われそうになる自我を何とか保ち、口を開くななし1。


「…何で、キス、したの?」

「…………馬鹿かお前は。」

「っ、さっきから、馬鹿、馬鹿、馬鹿って……何なの…」

「馬鹿に馬鹿と言って、何が悪い。」

「………」

三蔵の物の言い方に少し腹を立てたななし1は、三蔵から目線を反らす。
再度言うが、三蔵は彼女にそんな顔をさせたい訳じゃない。
小さくため息を付くと、ななし1の腰に回す腕の力を強めた。

「お前は、俺が挨拶代わりにキスをするとでも思うのか?」

「……思わない。」

「……じゃあお前は、俺がどんな時にキスすると思ってんだ。」

「………私が、うるさいから…?」


全く。呆れて物も言えんな。

身体を反らしていたななし1の背中に回していた腕の力をこめれば、ななし1は簡単に胸元に引き寄せられていく。
三蔵の胸元で目を見開くななし1が、ゆらゆらと瞳を揺らす。
それはまるで、ドラマのワンシーンでありそうな展開で。


「……三、蔵…?」

「……いいか、俺はアイツにななし1を渡す気なんて更々無ぇ。…コレがどういう意味かその頭で考えろ。」

「…、え、…それって…」


ハッと気付いた様に、顔を上げて三蔵の顔を見る。

綺麗な金髪と紫に吸い込まれそうだった。


「………今夜は月が綺麗じゃねぇか。」


三蔵の言葉に、気持ちを知ってしまった。

その言葉と、今抱きしめられている事実にざわざわと胸が騒ぐ。早く、ここから出た方がいい…と頭の中で警鐘がなった。

「…ごめん、私、部屋に戻る、ね、…ごめんなさい」

「……ッチ」

「腕、離してよ………痛い…。」


これ以上、三蔵の顔を見ては駄目だと、うつむいた。
ななし1は言葉と態度で彼を拒絶しても、捕まれた腕を振りほどこうとしても、敵わない。
彼の気持ちを知らずに今までの事を思い返すと、恐怖と罪悪感で押し潰されそうになった。
何とも言い難い感情が、ななし1の顔に出てしまう。

「…俺は言ったハズだ。お前をアイツに渡す気は更々無いと。それでもアイツが良いって言うんなら、ななし1、テメェがこの手を振りほどけ。」

「 …っ、無理だよ…私は…八戒が、好きだもん…
三蔵の、気持ちには…答えられ、ない…っ、でも、振り払うなんて……っ、」

「………………そうか、」




三蔵から振りほどかれた、腕。

目を見開いたななし1の瞳から、大粒の涙が、こぼれ落ちる。


それは、彼を傷付けてしまったことに対しての後悔だった。
三蔵が嫌いな訳じゃない、むしろ仲間としてとても好きだった。だから、彼女は腕が振りほどけなかった。
それでも、ななし1には心に想う、彼の姿がある。
優しさで振りほどかれた腕が、今になっては寂しく感じてしまう。自分はなんて卑怯なのだろうか。

もう三蔵とは、今までの様に戻れないのか…と思うと、溢れた涙が止まらない。



「……………ごめん……なさい… 」

「謝るな。お前は自分に正直に言っただけだ。さっさとアイツの元に行け。」

「………………………………うん、……おや、すみ……」





最初とは全く正反対だ。

静かにドアが閉まる。


廊下を走る音がどんどん小さくなると、三蔵は持っていた煙草を握り潰すとそのまま壁をに拳をぶち当てて歯を食い縛るのだった。




何度も言うが、彼女にそんな顔をさせたい訳じゃない。


end


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