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泥酔と仕返し



ななし1は、目の前の状況が何故起こったのか、理解出来ないでいた。
ガンガンと痛む頭で、今日の出来事を順に追っていく。


、そうだ。


紛失したカードの再発行手続きに日にちが掛かるため、しばらく滞在している街。
宿泊費を後払いで頼むと駄々を捏ね、渋々承諾してくれた亭主のなんと優しいことか。
しばらくはカードが使えないため、食事は手持ちの現金で何とかしのいでいた。

数日は満足にご飯も食べられなかった三蔵一行だが、今日は違った。


カードが届いたのだ。

これで腹一杯ご飯が食べられる!と喜ぶ悟空。
酒を飲みたいと言った悟浄。しばらく一行は禁酒していたものだから、みんな悟浄の意見に賛同して居酒屋に向かった。


ご飯をたくさん食べる悟空、ビールジョッキを片手に浴びるように酒を飲む悟浄。
一緒に酒を飲んでいたななし1は皆が笑顔で過ごす事が楽しくなり、三蔵の飲んでる熱燗にも手を出した。

……ここは調子に乗っていたと、ななし1は反省する。



そのあと、



悟浄と悟空に抱きついて、止めようとした八戒に……?



その後の記憶が、無い。



ななし1の目の前で寝息を立てる、三蔵。



何故一緒のベッドで寝ているのか。

いつものアメジストの瞳は閉じられ、行儀の悪い口はとても静かだ。
枕の高さが合わないのか、自身の腕を枕代わりにしているところが、少し可愛らしく見える。
法衣も着ていない。黒のインナーだけになっている上半身は、とても色っぽい。
さらに、ななし1の腰を引き寄せる様に回された腕の重みが心地良くて。

良いなぁ、とうっとり三蔵を見つめれば、うん、と三蔵が身動ぎをする。
ななし1はビクッと肩を揺らし、急いで思考回路を冒頭に戻した。



見とれている場合じゃない、何でこんな事になったかだ。

しかし、目を少しキョロキョロと動かしながら記憶を追うななし1は、三蔵が身動いだ事によって、身体に違和感を感じた。
ななし1はスッと顔を下げて自身の身体を見る。



「……ぇ!?」



服 を 、 着 て い な い 。



正確には、下着は着けているのだが、それ以外の服は身に纏ってない。
直接肌に触れた布団が、違和感の正体だった。


(…まさか、私、三蔵と……)


ななし1はそっと手を下半身に伸ばし、自身の太ももを触る。
地肌ではなく、触れた布の感触を探り当てると、あ、下は履いてる!と安堵した。

はて、何故上だけ脱いだのだろうか。
謎が深まるばかりであるが、この場から動いて三蔵を起こすのも気が引けた。
三蔵は早起きだから、明日になったら聞くか。いや、時間が経てば経つほど言いづらい、聞きづらい。


「…………何てめぇは一人で百面相してやがる…。」
「!!!」

はっと顔を上げれば、今にも鬱陶しいと言わんばかりに眉間にシワを寄せた三蔵の顔。
起こしてしまった、怒られるとびくつくななし1を見れば、三蔵は深いため息をついた。

「言っておくが、他意はない。どうせ記憶が無ぇんだろ。」
「ぅ………」

ナイトテーブルに水差しがあるから飲めと言われ、身体を起こして置かれた水を飲む。
ぬるい水ではあったが、火照った身体に気持ち良く感じた。

「てめぇが飲み過ぎて八戒と悟浄に絡んでた。仕方ねぇから部屋まで連れて行ったら今度は俺に引っ付いて離れねぇからこうなったんだ。」

ななし1が何が起きたかと聞く前に、三蔵からはこう返って来た。

聞くに、べったりと悟浄と八戒に引っ付いていたななし1の身を案じた八戒が、そそくさと寝ようとしていた三蔵に寝室まで送れとお願いしたそうな。
八戒が悟浄に引っ付くななし1をひっぺがし、三蔵に引き渡したのだ。

部屋に送ったまでは良いが、今度は三蔵に抱きついてそのまま動かない。
飲み過ぎたと口にするななし1に水を飲ませようとすれば、グラスとの距離すら認識できず、半分以上の水が上着を濡らした。
そのまま三蔵に再度抱き付いたななし1だったが、意識が朦朧としてそのまま眠りの世界に誘われていく。
器用に寝る奴だと悪態をつくも、しっかり抱き締められた腕を引き剥がす事が出来ず、そのまま三蔵はななし1の服を脱がし、三蔵共々一緒のベッドに寝る羽目になった。



全てはななし1の記憶の無い行動から起きていた事を知り、ななし1は恥ずかしさと申し訳なさから顔を赤く染めた。
月明かりしか無い薄暗い部屋で良かったものの、ななし1は自分の犯した失態にため息しか出ない。
再度水差しからグラスに水を移し、ぐいっと水を飲み干した。

これ以上迷惑をかける訳にはいかない。三蔵に部屋に戻る様に伝えようとすれば、腕を強く引かれた。

「……っ!!」

グラスが床に落ち、転がる音が響く。

その時ななし1は既にベッドに倒れており、腕を引っ張った男を見ていた。
薄暗い部屋の中、ななし1を組敷いた三蔵のアメジスト色の瞳が一際目立って見える。

普段であれば、倒れたグラスに水が入っていなくて良かっただとか、グラスは割れてないかとか、いきなり腕を引っ張るなだとか、色々思う事はあったのだろうが。

三蔵の瞳が、そう思わせなかった。

考える事を破棄してしまった脳と、ドクドクと脈打つ心臓。


「…おい、寝るぞ。」

「ぇっ………部屋に戻っ「気が変わった。さっさと寝るぞ。」


強く抱き締められた腕を振り払う事が出来ず、硬直するななし1。
意地悪な事に、先に寝息を立て始める三蔵の腕の中で悪態をつくしかなかった。



(三蔵に、こんなにもドキドキするなんて…!!)


(さっきのななし1も、同じ事をしたんだ。バチは、当たらんだろう…??)



end

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