ジッと遠くから見つめられたかと思えば、今度は一気に距離を詰めてきた日向に、影山は困惑していた。菅原に言われたようにバレー抜きで日向をみる、ということを答えも出ないまま思い悩んでいた矢先のことだった。
日向はその場で何かを言おうとしていたが、そういう話は二人でやれ、と菅原によって体育館から放り出されてしまい、流れで部室にやってきた。
部活自体はまだ始まっていないものの、もうほぼ全員が着替え終えた後のその場には男子高校生らしく荷物が散乱しているだけで、日向と影山の二人しかいない。
正体不明の動悸に戸惑う影山を余所に、日向が徐に距離を詰めた。

「影山、俺、お前のこと好きみたいなんだ」
「……は?」
「俺、馬鹿だからだいぶ遠回りしちゃったけど、影山が好きだって、やっと気付いた」
「待て、何言ってるんだ?」
「だから、影山のことが、好きだ」

突然過ぎて飲み下せない言葉を頭の中で反芻して、影山の頭は一瞬真っ白になった。
二文字で形成されたそれは、わざわざこの状況で言わなければいけないものなのだろうか。
友好的な意味では不自然で、だとしても日向が自分にそんなことを言うわけはないと、頭が混乱する。
文字通り固まった影山を、日向は力強い真っ直ぐな瞳で見つめてくる。
先ほどとは状況が違うのに、今の方がよほど穴が開きそうだと影山は思った。

「俺、色々間違ったかもしれないけど、でも、そのことがあってやっと気付いたんだ…」

人が一人入れるほどあった互いの隙間を、日向がぐっと詰めた。
思わず身構え足を引こうとしたのを許さず、すかさず伸び上ってきた日向の顔が間近に迫る。ぎゅっと瞑られた睫毛が長いなんてことを考えている内に、唇に温もりが触れた。

「俺の好きは、こういう意味だから、だから…」

背伸びしていたため浮いていた踵を地面に下ろして、自分からやっておいて顔を真っ赤にした日向を見て、ぶわりと体の中から何かが湧き上がる。
衝動のままに、気付けば日向の体を抱きしめていた。
腕にすっぽりと収まった小さな体が、困惑するように揺れて、やがておずおずと背に腕が回された。

「影山…?」
「俺も、お前のことが好きみたいだ」
「みたい?」
「今、そう思ったんだから仕方ないだろ」

言葉は自然と零れて、あっけなく落ちた。感情が後からやってきて、急に恥ずかしくなる。
じわじわと熱が体を駆け巡って、危うく沸騰しそうだと思った。
こんなに激しい感情を、どうして今まで気付かずにいたのかと不思議なくらいだ。

「俺、休みの日にお前が及川さんといるの見て、ずっともやもやしてたんだ」
「…っ」
「それがどうしてなのか、やっとわかった」

あれは世にいう嫉妬という感情だったのだと。そして、他の人間が日向と仲良くするのを見て感じるそれも、また。
しかし、そこまでいっても、赤い痕にまでは考えが及ばないのが、影山という日向とは違った無垢さをもつ人間で。びくりと腕の中で肩を揺らした日向が何を思ったのかも、当然ながらわからない。
気持ちを噛み締めるように黙り込むと、沈黙が落ちた。
急に気恥ずかしくなって、思わず腕に力を込めれば、苦しいと抗議の声が上がる。
それが思いがけず弱々しい響きで、まさかの窒息寸前かと影山は焦って日向を解放した。
突然引き剥がされて驚いたのか目を見開いた日向は、徐々にその瞳を潤ませた。

「な、どうした、そんなに苦しかったか?」
「ちが、俺、影山にちゃんと話さなきゃって…」
「……」
「でも、話したら影山に嫌われるかもって思ったら」
「っ、大丈夫だ。お前が何を言っても、嫌いになったりしない」

ぼろぼろと大きな瞳から零れるそれに、影山の胸も苦しくなる。
俺は日向のことが好きなのだな、と改めて実感した。
肩に手をかけてジッと目を合わせたまま言い聞かせるように告げると、日向はおずおずと頷いた。
涙をシャツの裾で拭って、改めて向き直る。
訥々と語られる影山には想像も出来なかったそれを聞いても、激しい嫉妬は覚えども、やはり日向を嫌いになるはずはなかった。
寧ろ、自分の気持ちどころか日向が他の相手とそういう関係になっていることにさえ気付かなかった己の鈍さに呆れ果て、自責の念に駆られるばかりで。
それに、及川がもし行動を起こしていなければ、まだ当分は影山がその想いに気付くことはなかっただろうと考えれば、複雑ではあるが思うところもあるというものだ。
そう伝えれば、また日向が泣きそうになったから、勢い余って小さく震える唇に己のそれを押し付け、掻き抱くように愛しい雛を抱きしめた。



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