影山のことをどう思うか。
そう、及川にもされた質問を菅原から向けられて、日向はまたそれかと眉を顰める。
何故皆影山のことばかり聞くのか。わけがわからないことばかり言われて、よくないどころの騒ぎじゃない頭はパンク寸前だ。言われたようにいくら影山をよく見てみても何もわからず仕舞いで。あわやぷちりと何かが切れる音がした。

「影山影山って何なんですか。言いたいことがあるならちゃんと言ってくれないとわからないです」
「ごめん。でも、こういうのは自分で気付くことが大事だから」
「…影山と付き合うとか、そういうの、想像したこともないです」
「じゃあ、想像してみればいいじゃん。影山とキスするとこ、想像してみ」

苛立ち混じりに返してしまった言葉に優しく諭されて、日向は自分がズルをしようとした気になってしゅんと項垂れる。
追い詰めるように言われ咄嗟に目を向けた先。本当にタイミングよくこちらをチラリと見やった影山と目が合った瞬間、驚くほどに心臓が跳ねた。
ボンッと顔が一気に熱くなる。心臓がばくばくと煩いほど脈打ち始めた。
これは、この気持ちは何なのだろう。
困惑しつつも、とりあえずされた質問に答えるべく、日向は周囲に聞こえないほどの小さな声で溢した。

「そんなの、恥ずかしすぎて死んじゃいます」
「うん。つまりそういうこと」
「……?」
「何とも思ってない相手とキスしたって、何も感じない。でもそうじゃない相手とキスしたら、…な?」

ぱちぱちと炭酸水のように視界が弾けた。
他の誰とも違う、ドキドキの種類。
そうか、とすとんと胸に落ちてきた仄甘い感情に、心が高揚する。

「俺、影山のこと…」
「ストップ。その先は、本人に言ってやんな」
「でも、俺、馬鹿で…俺が気付かなかったから、きっと色んな人を傷つけて…今更どんな顔で言えばいいのか」
「それは、仕方ない。日向にとっては必要なことだったんだろ。相手だって、一方的に傷付けられたなんて思ってないはずだ」
「菅原さん…」
「けど、影山にはちゃんと言ってやれ」
「はい…あの、ありがとうございました!」
「どういたしまして。可愛い後輩のためだからな」

その想いに気付いた途端、濁流のように様々な感情が日向の胸に押し寄せて、危うく足元がふらつきそうになった。
けれど、現実から目を背けない真っ直ぐな菅原の言葉が、力強く日向を支えてくれた。
ぽんと頭を撫でられて、日向は決意した。
一分一秒も勿体無くて、その足で影山の元に向かう日向の背を、菅原がどんな想いで、どんな感情の色を称えた瞳で送り出したのかなど、知る由もなく。



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