「おかえりイデア。……って、頭……」 扉が開かれ姿を見せた青年、イデアに向かって、ソファーに座っていたベロニカは微笑んで見せた。 そうしてすぐ、イデアの頭に微かに降り積もった雪を瞳に映す。 ベロニカの言葉で、イデアはただいまと言う前にそっと頭に触れてみたが、髪に乗り解けずにいた微かな雪が残っていて。 それはイデアの手が触れた事によって形が崩れ、雫へと姿を変えた。 入ってきた部屋には暖炉があり、明るい炎が揺らめき部屋の中を温めている。 その温度で、イデアの手が触れなかった形をとどめていた雪も、儚く雫へと姿を変えた。 頭だけではなく肩や袋に乗っていた雪も、既に雫へと変化してしまっている。 『ただいま、ベロニカ。……外、雪が降ってきたんだ』 「どうりで、ますます寒く感じるわけだわ」 寒いのが苦手な彼女だ。 暖炉が点き部屋を暖かくしているとはいえ、寒さに関しては敏感なのだろう。 ベロニカの傍へとイデアは歩み寄ると、彼女の隣に腰を下ろす。 ソファーの柔らかな感覚が、イデアに伝わった。 ふと、ベロニカの頭の中で先程のイデアとの会話が再生される。 “おかえり”“ただいま” 二人旅が始まって何度も起きた会話だが、それは何度も彼女の頭の中を駆け巡り、ある事を感じさせた。 ――まるで、夫婦の様だと。 そう思った瞬間、頬が赤に染まり、身体が暖炉のそれとは違う熱を感じた。 顔を横に振りつつも、そっとイデアの顔を横目で見てみる。 目を閉じてはいるが、普段通りの穏やかで優しい表情。 彼女がもし外で雪に振られたら今頃は寒いと文句を言っていそうなのだが、彼はいつも通りだ。 彼女は小さく息を吐いた――イデアらしい、そう思いながら。 「ね……イデア」 ベロニカがそう呼びながら立ち上がると、イデアは閉じていた目をそっと開ける。 最初に目に映ったのは、頬を赤らめたベロニカの姿だった。 海のような透き通った色の瞳に見とれていると、気付いた時には目の前に目を閉じたベロニカの顔があった。 唇に暖かで柔らかい、甘い何かが触れている。 それが彼女からのキスだと気付いた時、イデアは彼女の背中に腕を回すと、そっと引き寄せ抱き締める。 そうして再び、目をゆっくりと閉じた。 少し長めのキス。 青年の唇は冷たく、逆に少女の唇は暖かい、温度差のあるキス。 二人が距離を置くと、冷たい、暖かい、と同時に口にした。 思っている事が正反対で、二人は思わず笑ってしまう。 『……温めても、いいかい?』 「聞かれなくたって……」 あっためてあげるわよ、ますます顔を赤らめて告げるベロニカをイデアは心から愛おしく思った。 再び重なる二人の唇――温度差のあるキス。 その差がなくなるまで、それは何度も繰り返されるのだった。 2017/11/18 お砂糖たっぷりな勇ベロ。 二人旅をし始めて随分経ってる頃のイメージです。 [*前] [TOPへ] [次#] |