指切りの代わりにキス


空はすっかり暗い青に染まっていた。
無数の星々が輝き、世界を明るく静かに照らしている。

月が差し込むいくつもの部屋、その一室に二つの影があった。
青年と少女の姿をしているそれは、月明かり色に染まったベッドの上でお互い見つめ合っている。

青年は頬を赤らめ、どこか緊張した、しかし意を決したかのような凛々しい表情。
一方少女は、青年と同じように顔を赤く染め、緊張した表情を見せていた。
少女はベッドの上に仰向けの状態になり、その上に四つんばいでまたがった青年の姿がある。
先程までとりとめのない話をしていたはずだが、お互いが気が付くとその状態になっていた。

『……ベロニカ』

少女の名前を静かに呼ぶ青年、イデア。
そんな彼の声にベロニカはますます顔を赤らめ、鼓動を高鳴らせる。
ベッドに敷かれたシーツが微かな音を立てたが、まるで彼女の鼓動の高鳴りを隠すかのようだった。

――何かが起きる。
この状況と雰囲気で、ベロニカはそう強く悟っていた。
その何かがわからない程、ベロニカは少女と言う姿に合う年ではない。
首にかけられた赤いペンダントを手で握りしめたが、それを青年はそっと止めた。

“そのままでいい”という事なのだろう。
ベロニカは小さく息を吐いた。

「約束して……イデア。……痛くしないって」

顔を背けそうになりながらも、何とか青年、イデアの瞳を見つめそう告げるベロニカ。
イデアはしっかりと頷くと、ベロニカの唇に触れるだけのキスを落とした。
指切りの代わりに――約束のキスを。

ベロニカが身に纏う衣にイデアはそっと手で触れた。
同時にベロニカはそっと目を閉じる。

――長い夜が、始まろうとしていた。

2017/11/17

旅が終わった後の二人なイメージ……。

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