言葉を封じるキス


イデアの隣で座っているベロニカが文句を言い始めてから、結構な時間が経っていた。
文句が向いている先は、先程戦っていた魔物に対して。

倒したかと思えば仲間を呼び、再び倒しては更に仲間を呼ばれるという悪循環。
普段なら魔法で一掃する所だが、マホトーンによる呪文封じでそれも出来なかった戦い。
仲間達が息を合わせ一掃した事によって、ようやく戦いは済んだ。
しかしあまりの長期戦にすっかり体力を奪われ、疲れ果ててしまったというわけだ。

体力を奪われても、文句は止まないベロニカの声。
イデアはそんなベロニカを穏やかな表情を浮かべて眺めつつ、彼女の文句に耳を傾けていた。
ベロニカ、と声をかけても彼女の耳には届いていないらしく、文句を言い続ける。

『ベロニカ』

もう一度呼んでみたが、ベロニカは相変わらずだ。
だからイデアは、そんな彼女の頬に手を添え、彼女の唇にキスを落とした。
空いた手でベロニカを抱き寄せると、深く深くキスをし続ける。
先程まで文句が止まなかった部屋はすっかり静寂に包まれ、ベロニカは驚いた様子で、しかし恥ずかしそうにそれを受け入れる。

ようやく二人が離れた時、部屋の中に響いたのは呼吸を整える音だった。

「なっ……何、するのよっ……イデア……!」

ベロニカが着ている服に真っ赤なとんがり帽子、それと同じ赤に染まる顔。
そんなベロニカを見て、イデアは優しく笑って告げるのだった。

“ベロニカが無事で良かった”と。

2017/11/7

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