キスの前にお願い一つ


ふと、イデアとベロニカの目が合った。
休息を終え、薪に炎を灯し仲間達が起床するのを待っている時だ。
二人は朝食を作り、食材を切ったり煮込んだりしていた。

二人の他に、イデアの祖父であるロウも起きていた。
ロウは次の目的地までの進路を決めるべく、地図を眺めている。
二人とロウの間には地図が入り込み、お互いの様子は見えない状態だった。

――ロウが地図から顔を出し、二人を見ない限りは。

ベロニカは頬を赤らめると、イデアから恥ずかしそうに顔を背けた。
そうして止まっていた手を動かし、調理を再開する。
そんなベロニカの横で彼女を向いて跪くイデア。
気付かないはずもなく、ベロニカは再び調理の手を止める事となった。

柔らかでほんのりと暖かいベロニカの頬に、イデアの右手が添えられる。
そうしてお互いが目を閉じようとした――が、ベロニカは寸前でそれを止めた。
イデアの唇にそっと人差し指を当てて。

きょとんとした表情を浮かべ、微かに頭を傾げるイデア。
そんな彼にベロニカは小声で告げた。

「……好きって、言って」

する前に、そう付け足して先程以上にベロニカは頬を赤らめた。
優しくイデアは微笑むと、そっと口を開く――ベロニカの願いへの答えを。

『好きだ……ベロニカ』

イデアの言葉に、ベロニカは嬉し恥ずかしそうに笑って見せた。
あたしも好き、ベロニカはそう告げられぬまま、イデアに唇を奪われる。
言わせなさいよ、そう思いながらも幸せそうにベロニカは目を閉じた。

言わずもがな、地図から顔を出し少しだけ二人を見ていたロウの表情は、微笑みを浮かべているのだった。

2017/11/24

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