気が付くと、あたしは“それ”を目で追っていた。 目的地へ向かって歩いている時も、魔物との戦い中でも、キャンプで休息を取っている時も。 こうなったのがいつからだったかは覚えてない。 いつの間にかだった――この事に気付いたのはつい最近の事。 「お姉さま?どうかしましたか?」 ぼーっとしていたらしい。 あたしの隣に座る妹のセーニャがココアの入ったカップを両手に話しかけてきた。 一時何も言えず間が開いてしまったけど、あたしは顔を横に振ってなんでもないと答えた。 心配そうに、同時に不思議そうな表情で見つめるセーニャの視線が今は痛い。 今考えていた事を見透かされているような気がして、あたしは目の前で燃える暖かな炎に顔を向けた。 その炎を見て、これを付けたのが“それ”だったと無意識に考えていた。 炎のせいなのか今考えたことが原因なのか、体温が急激に上昇したのをあたしは感じた。 その時あたしの耳が拾い上げた、ただいま、という声。 辺りの様子を見に行っていた仲間の一人、カミュがそれと一緒に帰って来ていた。 それ――カミュの隣にいる青年、勇者、イデア。 今の今まで考えていた、それの正体だ。 あたしやセーニャ、近くにいたロウおじいちゃん達にこの辺りは大丈夫だと二人は伝えた。 女神像の加護があるとは言っても、念には念を入れておいた方が安心出来る、とも。 あたしはその言葉を聞きながら、イデアを瞳に映していた。 イデアの顔があたしへと向けられる――鼓動が高鳴った、ような気がした。 けどそうなる理由はない、あたしは気のせいだと思いながら変わらず二人の話を聞きイデアを瞳に映した。 この辺りが安全だと分かった所で、あたし達は今日の疲れを取るため休息を始める。 そうそうにテントに入っていくロウおじいちゃん。 星々が輝く暗い空を見上げるマルティナさん。 ブーメランの手入れをするカミュに、ココアを口に運ぶセーニャ。 『ベロニカ、どうかしたのかい?』 突然の問いかけに、今度は確かに鼓動が高鳴ったのをあたしは感じた。 けどそれは驚いたからで、特別な何かがあったからではない。 ない、はず、あたしは自分自身にそう教えながら、問いかけてきたイデアへと言葉を返した。 「え、別にどうもしてないわよ?どうしてそんな事聞くのよ?」 『長い事ボクを見てたから、何か言いたい事があるのかなって思って……』 「……へ……?」 イデアの言葉に、あたし自身驚くような変な声が零れた。 確かにイデアを瞳に映してはいたけど、そんなに長い事イデアの事を見ていたのかしら。 何とも言えない不思議な感覚を感じ始めて、あたしは慌てて顔を横に振っていた。 それはもう勢いよく、何度も何度も。 「ご、ごめん何でもないから!ええ、ほんとに!」 それならいいんだ、と微笑むイデアの優しい声がくすぐったく感じた。 自分でも気付かなかった行動がなんなのか考えながら、あたしはテントに入って休む事にした。 いつもならもう少し炎に当たって空を眺める所だけど、今はそうする事が出来そうになかったから。 テントに入ると、あたしはすぐ横になって暖かい毛布を羽織った。 中々寝付けなかったのは、早く休もうとしたせいだとあたしは思う事にした。 ――この時は、まだ知らなかった、気付かなかった。 自分でも不思議に、同時におかしく思う、この行動の意味が。 2018/2/10 イデアの事が好き、でもまだ自覚してない……気付いてない頃なベロニカちゃん。 以前書いた素敵な病よりも少し前のお話なイメージです。 [*前] [TOPへ] [次#] |