おやすみ、と告げて先に就寝しようとしたのは、ワケあって小さくなった少女ベロニカだった。 ベロニカの瞳に映るのは、丸太に座り揺らめく炎を見つめる青年イデアの背中。 彼女はそんな青年の背中を一時見つめ、瞳に焼き付ける。 そうして彼に背を向け、変わりに映ったテントへと入ろうとベロニカは歩を進めた。 その時だった――イデアが丸太から慌てるように立ち上がり、ベロニカを強く抱き締めたのは。 「いっ、イデア、急にどうしたのよ……!?」 二人以外の仲間達は、既にテント内で眠りについている。 そうとわかっていながらも、ベロニカは突然の出来事に驚きを隠せず声を上げてしまった。 口をパクパクさせつつ、体は衝撃と緊張ですっかり氷のように固まってしまっていた。 何も言わずに抱き締め続けるイデアの手が、ふと微かに震えている事に気付くベロニカ。 衝撃と緊張はまるで氷が解けたかのようにのようにスッと治まり、彼女は青年の手に自身の手をゆっくり重ねていた。 二人の耳には、側で揺らめく炎がパチパチと奏でる音だけが伝わってきた。 互いに何も言わず、沈黙は暫く訪れる。 夜空の星々は静かに輝き続け、その中に浮かぶ月は徐々に高い位置へと昇って行った。 『……ベロニカ……』 どれくらいか経った頃、沈黙を破ったのはイデアだった。 か細い声で彼女の名前を呼ぶと、イデアは抱き締める腕に更に力を込める。 重ねていた手にベロニカは少々力を入れると、そっと口を開いた。 「どうしたのよ……イデア……?」 『……もう少し、こうしていてもいいかい?』 イデアの言葉に、鼓動がとくんと高鳴るのをベロニカは感じた。 海の様な色をした目を伏せたと同時に、彼女の表情は月明かりのように暖かな微笑みへと変化した。 ベロニカは何も言わずに、ただ頷いてイデアの願いを承諾した。 今度はイデアの表情が微笑みへと変化する番だった。 暫く、二人は星明りと月明かりに照らされながらそのままでいた。 互いに温もりと、こうしていられる幸福感を噛み締めた。 突然今腕の中に納まるベロニカを抱きしめたくなったイデアは、彼女の温もりをしっかりと感じた。 “一度は失われた”彼女の温もりを、そして存在を。 彼女はここにいる、と言う確かな感覚をイデアは全身に刻み付けるかのように強く感じるのだった。 2018/1/26 *** イデアとベロニカちゃんが恋人同士になった後、イデアは時々ベロニカちゃんの死を思い出してはぎゅってしてあげてたらいいなぁっていうお話です。 [*前] [TOPへ] [次#] |