二人のマフラー


「お待たせしました、カミュさま」

道具屋から出てきてそう言ったのは、金髪のロングヘアに緑の衣を纏った女性、セーニャだった。
やや大きい茶色の袋を両腕で大事そうに抱き締めながら、セーニャは目の前にいる男性に微笑んで見せる。
男性、カミュと呼ばれた青年は、青色の針のようにいくつも尖った髪に、フード付の動きやすそうな深緑の衣を身に纏っていた。
二人の周りにいくつも舞い降りる白き結晶――雪が、このクレイモラン城下町を始めとした地方の温度を下げている
二人の姿を見ると、寒くないのかと思わずにはいられない程、この地方にはそぐわない格好だった。

カミュはこの地方で成長してきたため、寒さには慣れていた。
一方セーニャはこの地方で生まれたものの、故郷は山の頂上にある気候が安定した場所。
寒がる様子を見せない彼女だが、カミュは寒く思っているだろうなと心配で仕方がないのだった。

「目的の物、あったのか?」
「はい、とてもいいものが見つかりましたよ」

にっこりと笑顔を見せると、セーニャは早速茶色の袋の中身を取り出して見せる。
中から姿を見せたのは、柔らかそうな帯状で紺色に白の線模様が入った――マフラーだった。
カミュが驚きながらそれを見つめていると、セーニャはマフラーをカミュの首元へと持っていく。
そうしてゆっくりと、きつくならないように巻き始めた。
セーニャ、と声を零しつつも、カミュはセーニャの行動に身を任せる。
マフラーを巻く手が止まると、セーニャは頭を傾げ不思議そうな表情を浮かべてマフラーを見つめた。

「セーニャ、どうした?」
「ええと、マフラーが長すぎるような気がして……」

彼女の言葉にカミュは自身の首に巻かれたマフラーを瞳に映して見た。
確かにセーニャの言う通り、マフラーは程々に首に巻かれている。
しかし、それでも両サイドから巻き残ったマフラーがカミュの手先近くまで寂しそうに垂れていた。

一時考えカミュは納得した表情を浮かべると、巻き残ったマフラーを手に取った。
セーニャ、と彼女を呼ぶと、カミュの傍へとセーニャは更に近付く。
金髪の髪を巻き込んでしまわぬよう、カミュはセーニャの首に巻き残ったマフラーを巻き始めた。

「か、カミュさま?」
「動くな、じっとしててくれよ……」
「は、はい」

セーニャがとても大事にしている長い髪に触れるだけでカミュは鼓動が高鳴るのを感じていた。
その髪はとてもやわらかで滑らかで、花のような香りを漂わせている。
それだけでなく、彼女の顔がすぐ傍にあるのだ。
セーニャに聞こえてしまうのではないか心配になるほど、彼の鼓動はうるさく高鳴っていた。

もういいぜ、とカミュが合図した時、セーニャの首には巻き残っていたマフラーがしっかりと巻かれていた。
きょとんとした表情を浮かべるセーニャ。
巻かれたマフラーとカミュの顔を交互に見る。
そんなセーニャにカミュは説明した――これはロングマフラーだと。
マフラーそのものに夢中になり、普通の物かロングの物かを見ていなかったのだろうとカミュは思った。
想像してみると微笑ましくなったカミュは、思わず微笑みを浮かべた。

すみません、とセーニャは恥ずかしそうに頭を下げようとした。
同時に下がるカミュの頭に、セーニャはもう一度すみませんと謝罪する。
そんなセーニャの姿に緊張していたカミュの鼓動はすっかり落ち着き、現状を嬉しく思った。

「カミュさまが寒くないようにと探したものだったのですが……本当にすみません」

落ち着いていた鼓動が、一瞬で高鳴るのをカミュは感じていた。
頬が雪の中には目立つほど赤に染まる。
今度こそセーニャに鼓動の高鳴りが聞こえるのではないかと、カミュは心配に思った。
その心配を紛らわせるように、セーニャの言葉に答えを返す。

「謝るなって。……その、こうして二人マフラーが出来て……オレは嬉しいぜ」

今度はセーニャの番だった。
雪に目立つ程頬が赤に、カミュに負けない程にセーニャの頬が染まったのは。
彼女は満面の笑みを見せると、とても幸せそうな声でカミュに言の葉を告げた。

「私もです。……こうして、カミュさまにもっと近付く事が出来てとても嬉しいです……!」

更に傍へと歩み寄ってきたセーニャを、カミュは思いっきり強く抱き締めた。
腕の中で恥ずかしそうにするセーニャを、暫く放すまいと。
暫くこうして、二人マフラーの温もりと同時にセーニャの温もりを感じていたいと、そう思いながら。

これ以上に暖かい場所などないのだろう、二人の心は同じ事を想っていた。
二人を繋ぐロングマフラーだけが、それを知るかのように二人を包み込んでいるのだった。

2017/12/18

最初は勇ベロで書こうかと思ってました(笑)
カミュセニャだったらどうなるかなぁと書いたらこんな感じに。
二人にはストレートに自分の気持ちを伝えあっててほしいです……。


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