赤い服に赤いとんがり帽子。 肩からは黄色のバッグをかけ、帽子の下からは二つの三つ編みを垂らす一人の少女がいた。 期待とも不安とも取れる表情を浮かべた彼女は、ゼーランダ山と呼ばれる山の麓に立っていた。 彼女、ベロニカは先程まで山の頂上に位置する聖地、ラムダの入り口にいた。 待ち人を待っている所だが、ふとベロニカは思った。 ラムダが位置する場所は山の頂上。 邪神討伐の旅をしていた頃は世界中に魔物が生息しており、当然ここにも魔物が存在していた。 その頃は魔物を上手く利用し軽々とこの山を登ったものだが、魔物が消滅した今、この山を登るのは中々時間がかかるものだった。 ベロニカは山を下り、待ち人を麓で待つ事にしたのだ。 待ち人への配慮はもちろんだったが――それ以上に、ベロニカはその待ち人に少しでも早く会いたいと感じていた。 数日前に届いた手紙には、お昼を過ぎる前には着くようにすると書かれていた。 現在の時刻は、そう書かれてた時間よりも随分早い。 ふとそんな自分を見つめ直して見ると恥ずかしくなったベロニカは、無言で顔を横に振った。 心の中で、恥ずかしいと思いながら。 心地よい風が吹き、辺りに生えていた草花が揺れ音楽を奏でた。 彼女が好きな海が奏でる潮騒と同じように、心癒されるその音に彼女は耳を傾ける。 その時だった――それらの音に混じり、一頭の馬の鳴き声と足音が聞こえてきたのは。 「あ……」 思わず、ベロニカは一声零した。 美しい白の毛並の馬に跨り、こちらに向かって走ってくる青年の姿を瞳に映して。 青年もベロニカの姿をすぐに見つけたようで、ベロニカの傍へと辿り着くと止まった。 『久しぶり、ベロニカ』 サラサラヘアに紫の服と腰に巻きつけてある袋が特徴の勇者、イデア。 そんなイデアの背中を照らす太陽のように、暖かで優しい笑顔を見せて彼はそう言った。 ベロニカはもちろん、イデアも互いの姿を見たり声を聞けるのが久しぶりだった。 邪神討伐の旅を終え、二人旅の約束をしたはいいが、互いに何かと忙しくなり、気が付けばそれなりの間が空いていた。 ようやく互いの姿を見られ、声を聞ける――嬉しいと感じるのは同じだった。 「久しぶりね、イデア。……遅いわよ?」 『えっ……もうお昼を過ぎているのかい?』 「ふふ、冗談よ冗談」 彼はしっかりと、手紙に書かれている時間通りにやってきた。 時刻はまだ、お昼を過ぎる前。 冗談を言い微笑むベロニカを可愛らしいと思いながら、イデアも目を細めて笑って見せた。 旅の終わりが近い頃、二人は互いの想いを伝えあった。 そしてその後、これから始まる二人旅を約束したのだ。 それが、ようやく実現の時を迎える。 輝かしい太陽と雲一つない青空が、それを祝福してくれているようにさえ思える程二人は嬉しく思っていた。 『ベロニカ』 白馬の上に跨ったまま、イデアはベロニカに手を差し出した。 ワケあって少女の姿をしている彼女の手が届くよう、上半身を落ちない程度に前倒しにして。 ベロニカは微笑むと、そんなイデアの手の上に自身の手を重ねる。 イデアは軽々とベロニカを持ち上げるように引っ張り、白馬の上、彼の背中へと連れて行った。 しっかり捕まるようイデアは伝えると、馬を走らせようと手綱を握る。 旅をしていた頃よりも大きくなったように見えるイデアの背中を、ベロニカは何も言わず見つめた。 ――ふと、彼女は思い出した。 幼い頃、妹のセーニャと共に読んだ一冊の絵本を。 その絵本には王子様とお姫様が登場し、白馬に乗った王子様がお姫様を迎えに行くというシーンが存在していた。 現状をそのシーンと重ねるベロニカ。 イデアはユグノアの王子であり、白馬に乗って彼女の元へとやってきた。 まるでお姫様を迎えにきた白馬の王子様そのものだと彼女は感じる。 ベロニカはお姫様というわけではないが、その絵本のシーン同様だと感じずにはいられなかった。 くすっと微かに笑うと、イデアがどうしたのか聞きたそうに顔を向けられるだけ彼女へと向けた。 一時間を開け、ベロニカはイデアの背中から前へと両腕を回し、しっかり捕まる。 そうして彼に顔が見えないよう向きを変えると、満面の笑みを浮かべて声を出した。 「ふふ、なんでもないわ。……さ、行きましょ、王子さま!」 突然の呼び方にイデアは驚かずに居られなかったが、改めて手綱を握るとしっかり頷いて見せる。 白馬の鳴き声を合図に、二人を乗せた白馬は軽やかに走り出すのだった。 2017/12/23 PS4版の馬は白い馬で、イデアは勇者であると同時に王子様でもあると来たら、書かずにはいられなかったお話。 二人が結ばれたらベロニカちゃんはお姫様になりますよね……最高です、はい。 [*前] [TOPへ] [次#] |