通じ合った想い


空は雲一つない青空が広がっていた。
休息を終えた勇者一行は、旅を再開しようと宿屋の外に集まり始めていた。
おはようございます、と出てくるセーニャとマルティナ。
一番早くに起きていたロウは、穏やかな表情で二人におはよう、と返す。
間を開けずにカミュ、シルビア、グレイグと男性陣も起きてきた。

「みんな早いわね、おはよ」

女性陣最後の一人であるベロニカが続いて明るい声を出して起きてきた。
仲間達を一人一人見る彼女に、軽く頭を下げて挨拶を返す、双子の妹セーニャ。
彼女に続いて、仲間達も次々と挨拶を返す。

それから、残った一人――勇者であるイデアを仲間達は待った。
しかしイデアは中々起きてくる気配がない。
普段寝坊などせず、早ければロウの次にでも起きるイデアだが、今日はそれがない。
相棒であるカミュが言うには、イデアはもう起きていたとの事。
様子を見に部屋へ行こうと、カミュが動こうとした時だった。

暫く開かずにいた扉が音を立ててゆっくりと開き、中から顔を出した者が一人。
皆が待っていた勇者、イデアだった。

「遅かったな。どうしたんだイデア?」

カミュの言葉に申し訳なさそうな表情を浮かべると、彼はまた眠ってしまっていたと話した。
疲れているのではないか、と仲間達が問いかけたが、イデアは顔を縦に振る事無く横に振る。
大丈夫、そう言うように穏やかな表情で。

「……イデア、無理しないでよ?」

そんなイデアに心配そうに声をかけるベロニカ。
彼は彼女を見てほんのりと頬を赤らめると、微笑みを浮かべて頷いて見せた。
大人し目にいう彼女を仲間達が不思議そうに見つめる。
普段の彼女なら、お寝坊さんね、とかシャキっとしなさいよ、などと強気な声を口にすると。
しかし今のベロニカは大人しく、どこか普段と違うように思えた。
彼女の目先にいる勇者にも、同じことを思えた。

お互い顔を俯けて静かになる二人。
その様子を見てシルビアが何かを悟ったのか、進行方向へと指を伸ばして勢いのある声を出す。

「……さあ!ゆっくり休めたし出発しましょ!」

歩き出すシルビアを前に、イデアとベロニカを除く仲間達は互いを見て頭を傾げたが、すぐシルビアの後に続いて歩き出した。
そんな仲間達を暫し眺め、ようやく歩を進めようとした時、ベロニカがイデアに声をかけた。

「……イデア、眠れなかったの?」

顔を横に振って、違うよ、と否定するイデア。
改めて頬を赤らめると、目を細めて笑顔を見せ、目の前にいるベロニカに返事をした。

『……ベロニカは、恥ずかしくないかい?』
「……そんなわけ、ないじゃない」

イデアを見上げていた顔を俯けると、小さく返答するベロニカ。
彼女の顔が赤く染まった事を見たのは、目先に映るコンクリートのみだった。

――“ベロニカが、好きだ”

勇者がそう少女に伝えたのは、先日の夜の事。
海が見える花畑の中で、二人は想いを伝えあった。
互いのその想いはめでたく実り、町に戻ると二人はそのまま眠りについた。

また眠ってしまった、というのは嘘だ。
想いが通じ合ったのは幸せな事だが、改めて先日の事を思い出すとイデアは恥ずかしくなってしまった。
仲間達が次々と外へ向かう中、彼は最初になんと声をかけようか、ベロニカはどんな顔をしているだろうか、などと考えてしまって。
気が付けばすっかり遅れてしまったというわけだ。

ベロニカも似たようなものだった。
起床して準備を済ませると外に出たまではいいが、イデアを見て普段通り声を出せるのか。
自身が着ている服や被ってる帽子のように、顔を真っ赤に染めてしまうのではないか、などと気が気ではなかったのだ。

お互いが想っていた事を打ち明けると、二人は揃って笑っていた。
改めて両想いになったのだと強く感じ、想いが通じ合ったのだと幸せそうに笑った。

そんな二人を見て再度顔を傾げる仲間達。
ただ一人、そんな二人を見てにっこりと笑い祝福するのは、先頭を歩いていたシルビアなのだった。

2017/11/9

過ぎ去りし想いを形に、の後のお話。
シルビアさんは二人の関係の変化にすぐ気付きそう。


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