傍に居るんだよ


暖かな太陽の日差しが世界を照らしていた。
世界にある町の一つであるソルティコの町。
その坂を、青年と少女が歩いていた。
二人の背後からは、優しい風が海の匂いと共に流れてくる。
青年のサラサラヘアと少女の三つ編みヘアが優しく揺れ、二人が持っていた袋が音を立てた。

道具屋からの帰りだった。
開店直後に道具屋に着くよう早くに出発したものの、時刻は既にお昼を回ろうとしている。
旅に必要な道具はもちろん、旅に必須ではないアクセサリなども少女、ベロニカはゆっくりと見て回っていて。
青年イデアはそんな彼女を急かす事無く、穏やかな表情でそれを眺めていた。
その後、彼女の希望で坂を下った所から見える海にも寄り、更に時間が過ぎて今に至る。

坂を上りきった所で、二人はある音を耳にした。
音が聞こえた方を見てみると、そこには真っ白に輝く教会があった。
音の正体、それはその教会に佇む黄金色の鐘の音だった。
町の人々はもちろん、旅人も交じっているであろうたくさんの人々が教会に集まり、歓声と祝福の声をあげている。

――どうやら、結婚式の真っ最中らしい。
教会の中から出てきたのは、本日結ばれた二人であろう若い新郎新婦の姿だった。
真っ白なタキシードと真っ白なウエディングドレスをそれぞれ身に纏い、幸せそうに笑っている。
それに気付いたベロニカが足を止めると、イデアも同じように足を止めてその光景を眺める。
教会を包むかのように舞い散る花吹雪と祝福の鐘の音、人々の歓声と祝福の声。
その光景は、誰が見ても分かる通り幸せそうだった。

「……幸せそうね、あの二人」

立ち止まってから暫く何も言わずにいたベロニカが、初めて口を開く。
同感だと伝えるよう、イデアも頷いて見せた。
そうしてベロニカを見てみると、彼女の瞳は結婚式をとらえつつも、どこか遠くを見ているように思えた。
問いかけようとイデアが口を開いた時、ベロニカが目を細めて先に口を開く。

「いつか白馬の王子様とやらが迎えに来て……あたしはあの位置に立てるのかしら」

少女の声は明るいものだったが、どこか寂しげにも感じられる声だった。
そんな少女に青年は声をかけたいが、“今の青年”には言葉が見つからない。

“ボクがその位置に立たせるよ”

そう言えたらどれ程幸せなのだろうか。
青年はその言葉を零してしまわぬよう、喉の奥にしまい込む。

一目見て、青年は少女を好きになった。
正確には最近その事に気付いた――出会って一目見て、恋に落ちたと。
いつから好きになったのか聞かれた時、出会った時からだと青年は答えるだろう。

しかし、少女は青年を、勇者である青年を導く存在。
今はそれどころではないのだと、青年は溢れそうな想いを何とか心の奥底にしまった。

「……ごめん、変な事言っちゃったわね。早く宿に戻りましょ」

ベロニカの言葉に、イデアは目を伏せて頷く。
相変わらず溢れそうな想いを心の奥底に秘めながら。

ベロニカは止めていた足を再び動かしイデアの前を歩き出す。
イデアはそんなベロニカの後姿を暫く見つめていた。

この想いを彼女に伝えてもいい時は来るのだろうか――そう想いながら。

この時の二人はまだ知らないのだ。
彼女の傍に“白馬の王子”がいる事を。
青年が迎えに行く“お姫様”が、青年の傍にいる事を。

いつか二人が揃って、新郎新婦の位置に立てることを、この時の二人はまだ、知らないのだ。

2017/11/6

命の大樹が落ちてしまう前の話。
イデアはベロニカちゃんに無意識に一目惚れしてたらいいなと。
ベロニカちゃんも無意識に好きになってるんだけど、徐々にっていう感じかなぁと。


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