その時
「ペル!またおじさんとおばさんから荷物が届いたみたい!」

硬い木箱の角でノックをしたティティがドア越しに声をかけると、奥から駆けてくる足音が聞こえる。
続いて慌てたように開かれた扉のむこうから、日に焼けた11歳の少年が飛び出してきた。

「なんでいつもティティの方が先に知ってるんだよ」
「今日はすぐそこで配達の人に会ったの」

驚いたような嬉しいような表情でペルが扉を支え、入り口の脇に放ったままの雑嚢に彼女が躓かないようかかとで隅に押し込む。
広いダイニングのカウンターに荷物を置くと、彼女は決まって悪戯っぽい笑顔を向けてくる。それがわかっているから、ペルは言われなくても釘抜きを手にして彼女の横に並んだ。
年のわりに背が高い彼は、五つ年嵩のティティの身長に近ごろ追いついたばかりだった。
その事を無性に悔しがった彼女は、ここ最近ペルが隣に立つことを大袈裟に嫌がったが、この時ばかりは気にならないらしい。

「今回は何が入っているのかしら」
「さぁ、またお菓子か何かだろ」
「その割りに重たかったわ」
「重いならわざわざ先回りして取りに行くなよ」
「だって楽しみじゃない」

屈託なく笑うティティを横に、誰宛だと思ってるんだと口にしながらペルは釘を引き抜いた。
遠い国まで航海した両親から荷物が届くのは恒例のことで、見たこともないような食べ物や雑貨が入っているのも毎度のこと。
ペルひとりで消費しきれないほどに中身がつまっていることがほとんどだが、彼の友人たちで分け合うのだから特に問題はない。
むしろそれを見越して両親も送ってきているようだった。

「わあ、果物ね!市場で見たことないものばっかり」
「父さんからだ。箱のまま買ったから何入ってるかわかんないって。適当だな...」
「でも食べ頃っぽいわ、いい香りがするもの」

しっかりしてるのか雑なのか、とにかく万事がこういう感じの父だから、今さら呆れるほどのことでもないけれど。
きっと自分でも試食して気に入ったに違いない。遠い海から運ばれてきたにしては艶やかで、まだ店に並ぶ前のものをわざわざ奥から出してもらったのではないだろうか。
確かに食べ頃らしい、だけど名前もわからない不思議な模様の果実をひとつ手にし、ためしにペルは一口かじってみた。

「う、わ...なんだこれ...?」
「ん?美味しいよ?」
「はずれだ...ものすごくエグいぞこれ...」

同じようにかじりついたティティが不思議そうな顔をする。
今まで食べたことのない味には違いないが、みずみずしくとても甘い。
甘いものがそれほど好きではないペルが、眉根を寄せるほどでもない味だ。
それに果物の甘味は嫌いではないはずで、彼が一口目以降手を引っ込めた赤い実をながめる。

「まだ熟してなかったんじゃない?あとでジャムにでもしちゃえば?」
「そうする...」

口直しのために別の果実を手にし、苦々しげな表情でペルも同意した。
出来の悪い苺や林檎でそうすることは良くあったから、せっかくの贈り物を粗末に扱わなくてすむ。
ただそれに取り組むのはあとにして、数分後には木箱を抱えて二人して外に出掛けた。
今回もまた食べきれないほどに詰め込まれている。ジャムにしてかさを減らしても、きっとひとりでは片付けられないに違いない。


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -