対話
王宮の西、葬祭殿。
崩壊した地下聖殿も含め、瓦礫を掘り起こし柱を建て直し、その復旧工事の一切の指揮を統括したのは国王自身だった。
こうなったのは私の責任だから、と苦笑する王はいくらか落ち着きを取り戻した国全体の復興作業の指示を出す合間、執務室からのみならず時には現場まで赴きじっと様子を見守っていた。
その内彼自らも軍手をはめシャベルを持ち出したものだから、作業員たちは必死になってそれを止めたという。
手伝わせてくれないか、と笑う王に彼らは大いに焦ったが、これも王命、そう仰るのならと結局は一緒になって石の塊を運び出した。

そうして再建されつつある王家の墓は、以前の様相を徐々に取り戻し始めていた。
日も暮れた今、細かな装飾を施す職人たちも皆家路につき、王以外には誰もいない。
いや、そこには彼のほかにも多くがいた。
彼の父祖たちが、その縁者たちが、今もここに眠っている。

中でも一番新しい棺に掌をぺたりと乗せ、彼はふと微笑んだ。ざらざらとした砂埃の感触も厭わず、ひび割れた石の亀裂に指を這わせ、すまなかったなとひとりごちる。

「ずいぶんと騒がせてしまった…」

応えるものは勿論いない。しかし彼女の声音を思い出すことはできる。
こうして妻に話しかけることは今でも彼の習慣だ。十数年の間、もはや生きる彼女と過ごした時よりも長く、コブラはティティに幾度となく語りかけてきた。

海賊風情に好き勝手させてしまっていた。けれどそれを打ち倒したのもまた海賊だった。
ビビは彼らの船で帰ってきたんだよ、驚いたなああれには。
しかしとても気持ちのいい連中で、私も一緒に飯を食ったり風呂に入ったりしたんだ。
賑やかでなあ、久しぶりに心の底から笑ったよ。
君もきっと彼らを気に入っただろう。ビビはほんとうによい友を得たんだ。
あの子はなんでもひとりで抱え込むくせがあるだろ、君に似ているからな。
それを支えてくれたんだ。おれたちの命も懸けろって、そう言ってくれたって。

「でも彼らはもう行ってしまった。あの子は少し寂しそうにしているよ」

だけど、帰ってきたものもいる。
コーザがな、あいつ立派になって。昔から正義感の強い子だったから、最初はずいぶん責任を感じていたよ。
最近になってようやっと、また遊びに来てくれるようになった。正確に言えばビビが引っ張って来ているんだがな。
その内彼が気兼ねなく訪ねて来てくれるようになればいいと思う。きっと大丈夫だろう。
イガラムは死んだと聞かされていたから、姿を見たときはテラコッタさんと間違えたよ実は。
彼はピンピンしているよ。ここだけの話、煩いぐらいだ。昼間君のところへ行こうとしたら、こっそり抜け出したのをめざとく見つけられてね。まだ終わってないって椅子に縛り付けられたんだ。
相変わらずだよ。たった二年、されど二年。どやされるのが懐かしく思える日が来るとはね。しかし元気でなによりだ。

「それに、君の隼も」

ほんとうによく帰ってきてくれた。砂漠のど真ん中から歩いて来たらしい。
あの時のビビの喜びようったらなかったよ。あれはもしかして、もしかするかも。どうだろうな。
しかしまだ包帯も取れ切っていないのに部隊に戻りたがるのは困りものだ。チャカに言って止めさせているが、さていつまでその抑えが効くだろう。
国を救った英雄のひとりなのだから、今は養生しろと言っているんだがね。
そうしたら何て言ったと思う?国と民とこの私と王女を守り抜くと誓ったと言うんだよ。
あれだけしてくれたのにまだやりきれていないと思っているらしい。
頑固なのは西の国譲りかな。君にもそういうところがあったもんな。自分のことを全く考えてないんだよ彼は。
これからも生きている限り、その誓いは守ると言い切られた。

「私も、こうして生きているから」

あともう少しで君のところにゆけると思ったのに。
いや、怒らないでくれよ。そう考えると何も怖いものはなかったんだ。
私もこの国を守るためならいつ死んだって構わない。そう思っていたよ。
けれどね、ティティ、君とまた出会えるのは、まだまだ先になりそうだ。
生きて守り抜くと、彼が言っていた。私もそうしようと思う。
だからもう少し、待ってくれるだろうか。
私とあの子を、彼らとこの国を、そこから見守っていてくれるだろうか。


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