姫と正直者
海の上を飛んだことはない。

暴れる海賊たちを蹴散らすためになら何度もあったが、あくまでもそれは国の湾内でのはなしで、遥か彼方の見知らぬ海を飛ぶようなことは一度もなかった。
だから、何処か遠く、海の果てまで飛んでいったことがあるのか王女に尋ねられた時にも、それはないですと即座に答えた。
副官の職に就いた日の、玉座の前での出来事だった。

「でも、あなたは大きな鳥になれるって、パパもイガラムも言ってたわ」
「この島と、アラバスタ国内でしたら何処へでも飛べます」
「つまんない」

父や従者たちから聞く国の外の、とりわけ島を囲む偉大なる航路の物語を聞かされているビビにとって、見たこともないそれらは大きな大きな憧れだった。
いずれは自分もその海を見てみたい、冒険したい。
でも今はまだ無理だから、少しでもいいから面白くて不思議なはなしを色んな人から聞きたい。
きっとこの空飛ぶ英雄も色んなおはなしを知っているに違いない。

そう期待していただけに、新しい副官からにべもなく返されてビビは少し機嫌を損ねた。
場もわきまえず膨れ面になる王女の様子に隊長は副官を軽く睨み付け、その副官は何故こうもへそを曲げられたのかわからずに動揺し、なんとなくその理由に思い当たる父王ひとりがさも可笑しそうに笑う。
脇に控える内のひとりだったチャカは畏まった表情を乱すことなく、この後の宴席で年若く生真面目な同僚をからかえるネタができたなと考えていた。


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