希望の子(ベルメール、ゼファー)
──先生、
手紙の書き方もろくに知らないし、スペルの間違いもあるかもしれないから先にお詫びいたします。
ごめんなさい。

まずはご報告から。
私、生きてます。自分でもびっくりしたくらいだから、先生はもっと驚いているんじゃないかと思います。
でもこの下手くそな字、見覚えありませんか?日報を読んだ先生から「もう少し丁寧に書け」って、そんなことまで指導してもらったのを今急に思い出しました。全然進歩ないけど…

支部の艦がひとつふたつ沈んだところで、そのクルーが全滅したからって、いちいち本部まで報告が上がっているとは思えません。もちろん記録はあるでしょうけど、誰がそんなことを気にするでしょう。
でも、先生だけはきっと、私たちのことも私たちが乗る艦のことも全部知っていて、どの海にいたって私たちのことを気にかけてくださっている、そんな気がしてならなくって。
だから、こうして生き延びることができたことを、それがたった一人だったとしてもお知らせしなくちゃって思ったんです。

海兵として任務をまっとうできなかったことがとても悔しかったし、仲間を大勢亡くしてしまったこともとても悲しかった。切られたり撃たれたりした傷はものすごく痛かったし、もう少しで死ぬんじゃないかと思った。
でも軍を辞めたのはそれが理由じゃない。

ああ…またお話がいきなりになっちゃって。これが二つ目の報告です、私、退役したんです。
戦場から生き延びて帰った場所は、基地ではなく故郷のある島でした。軍は私の帰る場所じゃないって、死ぬほどの思いも怪我もしたんだから当然だって言う人もいたけど、でもそうじゃないんだなあ。
多分一番びっくりされるんじゃないかなと思う、三つ目の報告なんですが…
なんと私、母親になりました!

娘が二人、三歳と一歳の小さな子。とっても可愛いくて、とてつもなく強い子たちです。
死にかけていた私を救ってくれたのがこの子達でした。ほんとうに、もう少しで命を手放しかけたのに、あの子たちが笑ったから私は生き延びることができた。あんな状況で笑うだなんて、いくら屈強な兵士でも無理でしょう?でもあの子たちを見ていたら、私も自然と笑顔になれた。今だってそう、二人ともお昼寝中なのに、何がそんなに幸せなのか眠りながら笑っているし、私もどうしたって笑っちゃう。きっと楽しい夢を見ているんだわ。だから私は、この子達が夢から覚めても笑顔でいられるように、いいえ、もっともっと幸せに笑って生きられるようにしていきたい。

ああ、たった二人でも精一杯!
今まで私の力は、世界中の多くの人々を守るため助けるためにあるのだと思っていたんですけど…
でも私はもう海兵ではないから、たった二人かもしれないけれど、どんなことがあっても彼女たちだけは守り抜く。あの子たちは私の希望そのものなんです。

周りには散々反対されました。
けれど今までだって、誰に何と言われようと自分の思うがままに、正しいと思えることをしてきたつもりです。
でも、これは誰にも言ったことないんですけど、実はこんな私でも不安になることがあるんです。全部が全部正しいわけじゃなかったし、間違いだっていっぱい犯した。それでもいつも好き勝手やってて、周りの言うことには全然耳を傾けないって、昔誰かに言われたし自分でもそう思うんですけど、それでも時々、ほんとうにこれでいいのだろうかって、私の進む道は正しいのかって、わからなくなってしまうこともある。
そういう時はいつも、先生だったら何とおっしゃるのかなって、そう考えていることに気づきました。そうすると見えづらかった道もはっきりと見えたし、何より自分を信じることができた。

先生、
私たちの師で、私たちの父。こう呼ばれたことってないですか?あなたの教え子たちは皆そう言ってます。
勝手なことも、先生に対して無神経なことを言っているのもわかっています。ごめんなさい…でもどうしても伝えたかった。

グランドラインから遠く離れたここからじゃ、中々会いに行くこともできないですけれど…でもいつか、娘たちの顔を見せに行きたいと思ってます。この子達の笑顔を見たら、きっと先生だって思わず笑っちゃいますよ。うちの村の強面の駐在さんだってすっかり骨抜きにされちゃったんだから。(この子達、将来絶対いい女になるわ!)
ではまた、その時まで──


「知らん間に…孫が二人もできたのか」
「なんだい?」
「いや、独り言さ」

ここに届く便りはいつだって、できれば目を背けてしまいたくなるようなものばかりだった。どこかで艦が沈んだ、誰かが命を落とした。四六時中そんな知らせばかりで、気の滅入ることが多すぎた。けれども時々、こんな帰還報告が届くこともある。

ベルメール、お前こそが希望の子だ。
跳ねっ返りで男勝りの、人一倍強い意思を持つ心根の優しい子。
お前の選んだ道はきっと正しい。おれが示したわけじゃない、自分で選び取ったのだ。お前はそれができる子だ。
だからどうかお前も、ずっと笑顔で過ごせるように。遠いこの地からいつまでも願う。

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