16
静かに、時計の音が部屋に響いていた。気付けば、夜中の1時を間もなく迎えようとしている。 どうやら目が覚めてしまったようだ。
" 夜は自分の部屋から出ないこと "
此処に来た時にあの人間ジェレード博士はこのようなことを述べていたのではないだろうか。
夜、部屋を出たら何があるのだろうか。 もし部屋を出てジェレード博士に見つかったら罰として何をされるのであろう。 そもそも、博士も部屋から出ていないのだろうか。
興味が沸きだすとその泉は留まることなく溢れだす。視界に入った木造の扉が今回ばかりはなによりも輝いて見えた。 刹那、青白いナニカが面前を横切った気がした。 ・・・―――幻覚?
などという思考が揺らぐ。いっそ幻覚であるのならば、どんなに良かった事であろうか。 不覚にも脳内は、幻覚ではなく人魂として書き換えた。 人魂が、ふとすぐそばまで近付いてきた。その様子はこの人形の瞳には確実に入っている。
「……起きていたのか。流石、3日ほどじゃなれていないであろうのう」
お爺さんのような、いや、誓って年寄りの嗄れた声が直接的に耳に入ってきた。 「これこれ、そんなに驚くでない。普通の神様じゃよ」
神様とか言っている時点で完全に不信感満載ではあるものの、まあ人形世界、自分のいた世界とこの世界観は無縁である訳であり冷静さは相変わらずのままである。 何か言葉を言おうと自然に口が開いた。
「何の用事ですか」 「ふぉっふぉっふぉ、そこから聞いてくるとは……」
瞬きを繰り返す。結果視界には不思議なことに人魂が形を成して現れた。 容姿を言えば、髭面のお爺さんである。少しばかり想像と外れたローブを着ていたのだけれども。
「さて、場所を移しましょうか」 「場所?」
扉が無音に開かれた。人魂……お爺さんは風に揺らされるかのように扉へ向かう。 ふと、夜に外へ出てはならないと呼ばれた約束を脳裏に浮かばせたが、なんとなく、それとはまた世界が違う様な気がした為に今回は約束を破ることとした。
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「5階に来て何の意味が」 「一番安全だからじゃよ」
ふとお爺さんが微笑んだ気がした。
「此方の環境には、どうやら適応している様子じゃな」
感心感心、目元が細まるお爺さんに対しての自分には、話の中身について行けなかった。
「それはどういう意味ですか」 「この世界の環境に、君が適応しているということじゃ。お前さんは異世界から来たと自覚があるのじゃろう」 一瞬にして神様らしさのオーラを取り巻き出したお爺さんは言う。
「君は後に救世主となる」 「救世主?」 「君がここに来た理由は、この環境の救世主になるため」 「へぇぇ」 救世主など無縁の言葉である。どうやら自分にはそういう使命があるようだ。
「しかしそれだけでは無いんじゃ」 「そうなんですか」 後に客観的に耳に入ってくる。
「……君に足りないものを手にしてもらうように、私は君を呼んだ」 「足りないもの?それは前いた世界で自分に足りなかったもの、ですか」 学力、体力、忍耐力、想像力、考えればいくらでも出てくる。
「その通り。もはやお前さんは前世界で死んでいるのじゃがな……ふぉっふぉっふぉ」 楽しそうに笑ったお爺さんに珍しくも自分の脳が彼を敵として認識しようとした。全くのよく分からない状況である。
「今日はそのことを伝えに来たのじゃ。君に足りないものを探してみなさい、と」
声に耳を傾け、目を見開いた瞬間、そこには誰も存在はしなかった。
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