17
暫く立ちすくんでいたがふと、部屋に戻ることを思い出す。 今のこの状況は約束を破っているのである。そう足の向きをひっくり返した瞬間目には新しいものを取り入れ肩が震え上がった。 「……」
紫の髪、青色の吸い込まれそうな瞳。血の気のない顔、包帯で巻かれた右手。球体関節を露にした両脚。 どこかで見た記憶のある少女がそこに立っていた。 見た目から言うと彼女も人形の様子である。
「……名前は?」
何処かで見たという記憶を探っていると、ふと問われる。
「シャルネ」 「……そう……」
そこで彼女の左手に青色の薔薇が持たれていることに気付いた。
「それは?」
少しばかり気になったために聞いてみる。初対面でそれを聞くのはどうかとは一応思いもしたけれど。
「……心臓。……新たな犠牲者の」
機械の様な、冷たい声。表情のない顔は微動だにせず自分へと視線を送っていた。
「それはどういう意味?」 「そのままの意味」 理解不能の言葉を発し、間もなく自分の横を通りすぎる。夢の最中にあるような、不思議な感触を覚えた。 そのまま彼女は振り替えることなく去っていく。足音さえ聞こえなかった。
ふ、と気付く。彼女は絵画に描かれていた少女であると。 初日、興味を示したこの階の《SR-3》の部屋へ向かう途中、もう少し進んだ先に彼女そっくりの少女の絵が描かれた絵画が飾ってあったのではなかろうか。
なんて、認識した頃には当に彼女の姿は残っていなかった。…名前を聞いておけば良かったと少し後悔するも、今の状況がぼやけているがためにそんな思考もそれきりである。 …これは、夢なのだろうか。
…部屋に戻ろう。
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