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「重大なことよぉ!」
ミュイリカが声を張り上げる。因みに今この部屋には、自分とティアリア、ミカ姉、リト兄の4人が綺麗に円状に囲んだ椅子に座っていて、一人ミュイリカが真ん中に立っている状態である。
「緊急、明日に“意地悪ルゥナー”がやって来るわぁ!」
意地悪ルゥナー。知らない話であるが、周りの反応からしてどうやら良いことではない様子である。数秒間の沈黙。真っ先にその沈黙を破りとったのはミカ姉であった。 「はぁ?!それって本気で行ってるのですか?!」 「えぇ本気よ。私がウソなんて吐かないわぁ」 ミカ姉がえぇっと頭を抱えた。
「……意地悪ルゥナーって、何?」 率直に質問をした。
「名前の通り、意地悪な人間よ」 表情のないティアリアが静かに答える。
「意地悪ルゥナーは博士の娘か何かで、たまに遊びに来るんだ」 青ざめた顔でリト兄が続けた。
「彼女は人間だから、私達人形は彼女の前では普通の"人形"にならなくてはならない」 頭を抱えたままミカ姉が更に言う。
「もし彼女に私達が動く人形だとバレてしまったら、私達は博士の手によって魂が抜き取られるのよ」 ミュイリカは立ち尽くしたまま悲しそうに口を動かす。
微動もせず、人形達は重ねて述べた。
「逆に、意地悪ルゥナーの気にさわったりしても」 「博士はルゥナーの気を障った罪として魂が奪われる」 「私達の人形の掟だから」 「彼女に私達が生きていることは」 「決してバレてはならない」
人形の掟と聞いてふとここに来て間もなく渡された本を思いだし、ポケットから取り出す。 1ページ目を控え目に開いた。
当屋敷と人形界の掟 : : ・博士以外の人間に生き動く姿を見せてはならない (・博士近くの人間には特に用心すべき)
以上の約束を破った場合には刑が執行される。 罪を重ねればやがて魂を抜かれることとなるだろう。
纏めよう。 意地悪ルゥナーとは、人間で、博士の娘か何かで、意地悪で、自分達は動かない人形を演じなくてはならないと。 恐らく、自分の元いた世界でいう幼い子供の遊び道具である着せ替え人形等に近い感じで遊ばれるのだろう。
そう、解釈すると一緒にティアリアと目が合った。 「シャルネ、貴方は特に気を付けた方がいい。貴方は新しく入った人形だから遊ばれる可能性は高いわ。それに」
「それに?」
「……他よりも、全てが整ったSSランクの人形だから。目を付けられやすいのよ」 ティアリアはそれきり何も声を発することなく扉の外へと出て行った。
「シャルネ、明日は兎に角動かないように。固まっておけば平気だから」
青ざめた表情のリト兄に頷く。 兎に角、明日は人形に成りきるとしよう。
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