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「シャルネは、きっと元々人間ね」 「何故そう思うのかい?」
木造の両扉の先で淡々と話し声が響いていた。無論、書物にまみれたこの部屋にある者などは限られてくる。 ティアリアとリトであった。
「思考回路が人間なの。多分、年齢は中学生ほどだと思うわ」 「ティアリアの勘は毎回当たるからな。いつもは大して人形達に興味を持たないが、流石にシャルネは気になるのか」 「そう見える?」
積み重ねられた本を取り出してはしまいこむ。 僅かな記憶を頼りに、自分の知る文字を探すこの“日記帳探し”という作業に気付けば毎日が潰されていた。
ここの人形と同様に文字が読めない分類にあるものの、一つばかり私には例外があった。 そう、私には前世という言葉を用いてかつて使用していた文字があるのである。 その文字さえ見つければ、私の日記帳は確実に見つかる。そして、確実に自分の過去の記憶が思い出せるのだ。
それが私のこの日常の目標のようなものであった。
「シャルネは顔がかなり整っている」
本をしまいこむと同時して、その言葉に隙なく耳が傾いた。 静かにリト兄に瞳を揺らせば、彼の表情の何とも言い難い難しい顔が瞳孔に入ってくる。
「それが、どうかしたの」 「今回の博士の傑作だということだよ」
理解難しき言葉。リト兄と、そしてミュイリカがたまに述べる、理解不能のその言の葉に自然と顔が疑問符を打つのを実感した。だからと言って、私は疑問符を口にする勇気すらないのである。 リト兄も、ミュイリカも私が理解出来ない発言をするときに必ず快い顔をしないのだ。 相手の空気を詠むのは苦手ではない。自然と、口は開かなくなる。 聞いてはいけないような気がして。
「シャルネはきっと人気者になるわね」 「それも勘かい?」
「いいえ、人形は綺麗なモノを愛するからよ。綺麗ならば何であっても」
それが、私が今まで私が静かに観察して見つけ出した人形の特質。 その内、シャルネが他の“人形(住民)”に知らされる。彼は人形界最強の人形なのだからそれは確実に。 そして知らされた後には、沢山の人形が一目見ようとシャルネを見に来るであろう。
「全く«A-4»は人形らしい人形がいないな」 「そうね。それはよく思うわ」
図書室の窓から強い日差しが滑り込んでくる。 窓を見やると、崖の先の海が少しばかり顔を覗かせていた。
「さて、一旦戻ろうかな」 「私も戻る」 「意外だね」
「いや、そうせざるを得ない気がするの」 ほんの小さな予知は得意なこと。
突然、扉が控え目に開かれた。 扉の開くタイミングに平行し、リト兄の瞳が微かに開かれる。
「シャルネ、」 「ミュイリカが大事な話があると二人を呼びにきました」
「ああ、今行くよ」
リト兄の表情が切り替わる。
「呼びに来てくれてありがとう、シャルネ」
そう自然と口元が上がる。彼は静かに微笑み返した。
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