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イシュトヴァーン戴冠式当日。
朝からイシュトヴァーンの女官に手伝ってもらい、イシュトヴァーンの国旗の色の衣装を着せてもらった。
久々にきついコルセットを着用したため、肋骨が折れそうになる痛みに耐えながら、戴冠式の準備を待つ。しかし、男物のマントは引きずってしまうほど重たい。エステルの普段着用しているのも重たいのだが、このマントには宝石だの飾り紐だの、毛皮だのついてて引きずるのも憚られた。
エステルの眉間には皺が寄っていた。
コルセットやマントなどの衣装問題、あとはエドの出席問題も。
あの後、やはり納得できなくて何度かイシュトヴァーンの人達に言ってみたが、やはり返事は駄目だった。
悲しい思いをしながら、一人でやらないといけないのかとちょっとだけ心細くなってしまった。
でも。それでも「イシュトヴァーン王」になるのはエステルただ一人なのだから。
そう自身を納得させて、教会の控え室で時間まで待つ。
ノックの音がして、一人の女の人が入ってきた。
会議室にいた、あの女の人。
しかし、何度見ても背が高くて格好いい。羨ましい。
「何だその変な面構え。緊張してんのか?」
「してないわ。えーっと」
「…ディアナ。ディアナ・リオ・ウォルシュ。」
ディアナと名乗ったその女性はエステルの前に座った。長い足を組みながら、エステルを頭の先から靴先までをじっと見て鼻で笑うように言った。
「ふーん、ちゃんとした衣装なら、王と言うか…お姫様っぽく見えるわ。感心感心。」
「失礼な人ね。」
「形振り構わない上に、ピーピー泣く小娘としか思えなくてな」
「はっきり言うのね…」
「ま、別にいいけどよ。あんまあたしらに迷惑かかんなきゃいーや」
髪の毛をがしがしとかきながら言うディアナ。
「イシュトヴァーン王になったらあんたにお願いしたいことがあるんだわ」
「あんた呼びやめてくれたら聞いてあげるわよ」
「まだ戴冠してねえだろ?…まあ、いいわ。今やってる戦争の。ゲルマニクスと戦う軍…最前線ににあたしを入れてくれ」
「はあ?どうして!?」
「どうしても、ゲルマニクスの王をこの手でぶっ殺してやりてえんだ。」
ディアナの頼みにエステルは困惑した。
戦に行きたがる人なんて匆々いない。ましてや、彼女も自分と同じ女性だ。エステルが了承しても軍部から文句を食らうことは考えればわかる。
何より、まだ彼女の事を信用できない。
エステルは首を横にふった。
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