▼ 13
「やっぱか」
ディアナは自嘲気味に笑った。
「私を潰しにかかってるバヴィエーラとゲルマニクスに反撃しないといけないの。私が潰されたら貴女の願いも叶わないわ」
「…」
「ディアナ。貴女が私の護衛になってくれるなら考えなくてもいいわよ」
「はあ?」
「信頼に値できるか、もし戦場をお願いしたとしてもやれるだけの力があるのか。それを見極めたいの。どう?」
ディアナはエステルの申し出に、苦虫を噛み潰したような表情になった。
「男の護衛は私の国にもいるけど、女性の護衛がいたらいろいろと私は助かるわ。」
「…」
「無言は了承ととるわよ」
「わかったよ、うっせーな、やりゃいいんだろ!」
ディアナは顔を背けた。
エステルは笑顔になりながらディアナに手を差し出した。
「?」
「握手よ。これからよろしくね」
「…よろしく」
ぶっきらぼうにエステルの手を握りしめた。
案外、意地悪そうに見えて優しいのかもしれない。
エステルは握りしめられた手に、自分も力を込めてそう思った。
戴冠式の時間が迫り、エステルとディアナは部屋を出た。
「馬から落ちんなよ?もし落ちたら大笑いしてやるわ」
「もう!落ちないように半年前から練習してるわ!からかわないで。」
ディアナにからかわれてむくれた顔をしたエステルに、バルト公が近づいた。体調面を尋ねられ、エステルは万全だと答えた。
イシュトヴァーンの戴冠式の儀式は少し変わっている。国王が戴冠の儀式のあと、馬に乗って山を駆け上る。それから…剣を向けて「この国をどんな敵からも守る」と宣言をするのだ。
半年前からエステルが必死に乗馬の練習をしたお陰で、彼女は空気を切って山を駆け上り、剣を向けて「この国を必ず守る」と宣言を行うことができた。
ただほんの少しアクシデントはあったものの、それは微笑ましい事として笑い種になった。
イシュトヴァーンもシェーンブルーも、エステルが儀式を完璧にこなしたことで、拍手喝采だった。
特にイシュトヴァーンの者達は、まだ19歳の小娘が馬に乗れることにも驚いていたが、
ふらつきもなく軍馬に乗って山を駆け抜ける姿に感心していた。
そして、そういう人物が自分達の王になると嬉しくなった。
イシュトヴァーン人は、皆こう思った。
『我らの誇り高い血と剣を。
この若い女王陛下にささげます』と。
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