小説 | ナノ


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頭を上げたアマーリアは、申し訳なさそうな表情のままだ。
エステルは、一つ引っかかった言葉があった。こんな表情を浮かべている従姉に聞くのはこちらも申し訳ない気持ちになるのだが、仕方がない。


「アマーリア様、トリアノンから騙された、とは」
「…実は、バルタザール叔父様が崩御されたすぐに、トリアノン王から手紙を貰ったのです」

彼女は一枚の手紙をポケットから出して、エステルに見せた。
そこには、「『帝国』の皇帝はこのままでは女性が継いでしまう。王の座は男がなるべきだ。そして先代皇帝の兄の娘であるアマーリア姫の婿であるバヴィエーラ国の王であるミゲル王が皇帝になるべき。その為ならお力添えをいたします」と書かれてあった。

しかも、差出人はトリアノンの王であるメルキオールの署名もある。
たぶん、代筆のものが書いたものだろう。王自らが手紙を書いて出す物好きはエステルとユーグくらいだ。


「私、エスターライヒ家の誇りが残っています。何度も抗議をしたのですが…聞いてもらえなくて…。ついには『帝都』に進軍始めて…私どうしようと悩んだのです」
「ええ…でも、結果的には『帝都』に行かなかった」
「…情が湧いたのかもしれません。もしくは何か…トリアノンの企みを知ったとか…わかりませんけど…」
「…」
「今回、シェーンブルー軍がバヴィエーラの州都を陥落させたと聞き、ミゲル様の意見が変わったのです。」
「変わった…?」

アマーリアはまた一枚の紙を取り出し、エステルに渡した。

「今、病気で倒れている夫…ミゲル様からの手紙です」
「ミゲル様からの手紙…?!」


そこには、たくさんのミゲルの言葉が書かれてあった。

エステルの父の約束を破ったことへの謝罪、トリアノンに唆されて帝都を占領しようとしたこと。そして、イシュトヴァーンを味方につけて反撃したこと、州都陥落の話を聞いて、エステルを侮っていたことへの謝罪が書かれていた。
そして、会って話をしたい。と

エステルは読み終わると同時に、アマーリア皇妃に向き合う。

「…アマーリア様」
「何?」
「これは、いつ書かれたものですか?」


「病気で倒れた後、今までの頑固さがまるでなくなったような…そんな感じになってしまって…先日書かれたものです」

アマーリアは、ミゲルが病気で倒れてしまったあとの事を詳しく説明した。
そのアマーリアの顔は、敵国の皇后ではなく病気の夫を支える献身的な妻だ。

エステルがその手紙をたたんで机に置こうとすると、ここに聞こえるはずのない声が聞こえた。


「アマーリア」

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