小説 | ナノ


▼ 11

エステルもアマーリアも一斉に振り向いた。少しだけ苦しそうな色が混じった、よく通る低い声。まさか、と思ったその先には…一人の男性が経っていた。


「…ミゲル様!」

そこにいたのは、アマーリアの夫でありエステルと対立しているバヴィエーラ国王。
今や『帝国』の皇帝のミゲル本人であった。


「病状が少し落ち着いたから…やはり直接会って話さねばならんと思った。久しぶりだな、エステル姫」
「…お久しぶりです。ミゲル様」
「あんな小さかった君がもう、20歳近い淑女に成長したのだな」


ミゲルも、エステルと会った日のことを懐かしむように目を細めた。
当時4歳のエステルと、25も離れたミゲル。いまや20近い女性と40を超えた初老になった二人。


「ミゲル様、お一人で来られたのですか?」
「いいや、馬車で。外に人を待たせている」
「そうですか…外出できるくらいまで回復したことは安心しました…」

エステルの表情は固いままだが、ミゲルの体調を気遣った。
その言葉に、社交辞令とはいえミゲルは嬉しそうな顔した。

「すまんが、アマーリア。二人で話したい。別室に行ってもらえんか」
「…」
「わかりました。エステル様、ちょっとお庭の方に出てますわね」

アマーリアは椅子から立ち上がり、部屋から出た。
エステルは一瞬不安そうな表情になる。少しだけ、ミゲル王と二人きりになるのを…怖いと思ったからだ。


「そんなに怖がるな。私は病人だ。杖くらいしか持てないぞ」
「…すみません。」

病人とはいえ、ミゲル王は男性で。もしその杖で殴られたりなどされたら…と考えてしまう。エステルも護身術くらいは一応習ってはいるし剣もこっそり持っている。でも、いざという時に出来るかと聞かれたら、危うい。


「まあ、仕方ないか…。そういえば、エステル姫。イシュトヴァーン王になったのだったな。エステル。おめでとう」
「有り難うございます」
「イシュトヴァーンの説得に半年もかけたと聞いた。大変だったな」
「いえ…」
「謙遜はよそう、エステル姫。素直に言ってくれ」
「大変、でした…向こうも頑固なので…」

少々他愛のない話をする二人。
その中でエステルの緊張が少しだけ和らいだのをミゲルは確認し、話を切り出した。


「エステル姫。その手紙にも書いたが、トリアノンにいろいろと唆されてこんなことになってしまった…トリアノンやゲルマニクスに振り回されて、君には申し訳なく思っている」
「ミゲル様…」

病気になってから色々考えた。
「皇帝」に拘って自国を蔑ろにしたことで、エステルに州都を陥落させられたこと。
横取りのような形で王冠を被って、シェーンブルーの帝都に攻め入ろうとしたこと。


「本来なら、戦が終わってから戴冠すべきだったと思う。しかし…君が降参して皇帝の王冠を諦めてくれれば、と思って焦ってしまった気持ちが強かった」
「…」
「まさか、犬猿の仲のイシュトヴァーンを説得して…私達に反撃するとは思わなかった。
それほど、君が皇帝という座が欲しいとは…」
「私、権力が欲しいわけではないんです、ミゲル様」
「…どういうことかね?」

prev / next

[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -