小説 | ナノ


▼ 09

「アマーリア皇后様、ご無沙汰しています。どうぞ」

エステルは微笑みながら、来客を迎えた。
彼女はバヴィエーラ国の王妃であり、今や『帝国』の皇帝ミゲルの妻であるアマーリア・ヴィステルバッハだった。

アマーリアが、わざわざ敵国のシェーンブルーに来た理由。

彼女はシェーンブルーの王家エスターライヒ家の出身であり、エステルの父方の従姉なのだ。
出身国であるシェーンブルーの国に帰る権利はあるのだ。しかし、それ故にミゲル王が王位を主張して戦争になっているのだが、ここでは割愛する。

今や敵国同士になってしまった、従姉同士の二人。
そのアマーリアがエステルに手紙を送ったのだ。

『二人で会いたい』と。


エステルは護衛を一人連れていく事を条件に承諾したのだ。
それ故に、エステルは同性であり護衛をお願いしているディアナに同行してもらった。彼女は一応部屋の外に待機してもらっている。

アマーリアは、エステルの座っている席の向かい側に座った。
久しぶりの従姉は、まるで小さかった子供が成長したのを喜ぶかのようににこにこと笑いだした。


「久しぶりですね、エステル様。ふふ、最後に会ったときはまだこんなに小さかったのに…」
「アマーリア様、あれから15年もたっています。もう私は19歳ですよ」
「そうでしたね。もう15年でしたか…」

アマーリアとミゲルの結婚式の時に、エステルとバルタザールは出席していたのだ。従姉のアマーリアは、年の離れたエステルのことをとても可愛がってくれてくれていた。結婚式の事が遠い昔のような気がした。


しかし、思い出話をしに来たわけではない。
エステルは表情を引き締めて、『従妹』ではなく『シェーンブルーの王』としてアマーリアに向き直る。


「それで、アマーリア様。お話とは…」


アマーリアは少しだけ表情を曇らせ、頭を下げた。


「夫の…ミゲル様が…叔父様、貴女のお父様とのお約束を破ってエステル様から…いえ、エスターライヒ家から『帝国の皇帝』を奪ったこと、帝都に進軍しようとしたことをきちんと謝りたいの」
「アマーリア様…」

敵国で、しかも年下の女の子に謝るのはとても辛いことだろう。エステルは狼狽え、アマーリアに頭をあげるように促した。

「あの人は…トリアノン王国の者からの言葉にまんまと騙され…シェーンブルーを潰そうとしていました…本当に…数々の無礼、本当に申し訳ありません!」

頭を下げたアマーリアに、エステルは慌てた。
彼女からの謝罪が欲しいわけではない。それに、大事な従姉が悲しそうに謝るのを見たくはない。

「アマーリア様、頭を上げてください!」

prev / next

[ back to top ]



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -