▼ 12
「まさか、犬猿の仲のイシュトヴァーンを説得して…私達に反撃するとは思わなかった。
それほど、君が皇帝という座が欲しいとは…」
「私、権力が欲しいわけではないんです、ミゲル様」
エステルはミゲル王の言葉に耳を傾けていたが、口を挟んだ。
「…どういうことかね?」
「私、やりたい事があるんです。」
「やりたい事…」
「常々思っていたことなんですが…女性の活躍できる場が欲しいと思っているんです。
女の子でもいろんな職業に就く事が出来たり、たくさん働ける社会を作りたい」
「…」
「男性に頼りきって生活するのではなく、自分達の力で。支えあって生きる社会を作りy対と思っているんです。でも、それをシェーンブルーとイシュトヴァーンだけで変えていくのでは足りないと思う」
エステルは、イシュトヴァーンでも説得した時に告げた話をミゲル王にも行った。
「そういう社会を、私は『帝国』も出来るようにしたいんです。だから…『皇帝』の座はずっと諦めません」
「…なるほど」
ミゲル王は腕を組んだ。エステルは言葉を続けた。
「…なので、シェーンブルーの王の座も奪おうとした、ミゲル様やあのクソッタレ…じゃなかった、ユーグ王、メルキオール王の事は許せなかった。ましてや、勝手に戴冠したミゲル様には、失望の気持ちもありました」
エステルの思い出にあるミゲル王は、威厳のある立派な王だった。
まるで物語に出てくるような、立派な王様だと思っていた。
しかし、今回の事でミゲル王のイメージがズタズタになってしまい、ショックを受けた。
ミゲル王は表情を曇らせた。
「それについては、反論はしない」
「…すみません。」
そしてミゲル王は国事詔書の件についても謝罪をした。
エステル自身もわかってはいた。所詮紙切れの約束事だ、バルタザールが亡くなったらほぼ無効に近いものになるだろう、と…。それはエステルだけでなく、シェーンブルーの大臣達もわかっていた。
「私は、皇帝になることを諦めていません。死ぬまで諦めません…。それを邪魔しようとするのなら、私は戦うまでです。戦場に出る覚悟もある。
そうでなければ、今までの戦いで私の為に戦ってくれた兵にも…亡くなってしまった兵に合わせる顔がないし、亡くなった人たちが浮かばれないわ。
ミゲル様。貴方から私は王冠を…『帝国』の王冠を取り戻します!」
「…茨の道だぞ、エステル姫」
「その覚悟は、私がシェーンブルーの王位を継いだときに…昨年よりもう出来てます。」
ミゲル王は目を見開いた。そこにいたのは、19歳の若い小娘ではない。
一国を背負った、立派な意思や信念を持った若い王であった。
「…敵に回すのを、嫌な相手になってしまったな…」
ミゲル王は自嘲するように呟いた。
prev / next