小説 | ナノ


▼ 08

州都を終われたミゲル王は、ゲルマニクスの領土の近くに逃げ延び、心労と疲労で体調を崩してしまったという知らせが届いた。

年こそまだ半世紀も生きていないが、慣れない土地というのも心労の原因なのかもしれない。その知らせに対して、何も思わなかった自分がエステルは悲しく思った。


そして、エステルはとある人との約束で、宮殿から出離れた。バルト公もいない今、宮殿をエドヴァルトに任せ、エステルはディアナと共に郊外の別荘へ向かった。


ディアナは文句ばかり言っていたが、エステルは護衛の事をもう一度伝えて言うことを聞いてもらった。
乗馬用の服を着用し、エステルは軍馬に乗り込んだ。


郊外の別荘。
エステルの祖父が建てた別荘であり、狩りの為に作った場所である。よく父や独身のときのエドヴァルトも利用していた。

自然も豊かで、田園風景の長閑な場所。
野生の動物も多くて、狩りにはうってつけの場所だ。



エステルは自分の軍馬をディアナに預け、厩に繋いでくるように頼んだ。

「お客様が来る前に軽く掃除しないといけないわね」

軽く埃のつもった別荘の玄関を見て、エステルは呟いた。そして、乗馬服のまま彼女は掃除を行った。


途中で合流したディアナも掃除に加勢してくれた。
ある程度掃除が落ち着いて、エステルはドレスに着替えた。

いつもの青緑ではなく、くすんだ水色とレースのドレス。自分のいつものをドレスを持ってきておらず、別荘に置きっぱなしの亡くなった母の物を使わせてもらうことにした。


シンプルめのドレスだがあまり派手なものを好んでいない彼女にとっては嬉しかった。サイズも丁度いい。


崩れてしまった化粧を整え、お湯を沸かしていると。
来客を知らせる呼び鈴がなった。

「ディアナ、案内してきてもらえる?」
「…仕方ねえな」

ディアナはぶすーっとした表情を一瞬したが、すぐに玄関に行った。

居間に向かったエステルは沸いたお湯をポットに入れる。

お部屋に紅茶の茶葉が仄かに香る。
相手が紅茶が好きだと聞いていたため、わざわざ紅茶大国のアルビオン経由で紅茶を用意した。

「うん、いい香り。」

テーブルにカップとポットを並べる。
横にミルクピッチャーと砂糖も。味があわなかったときのために。


五分後。
部屋に入ってきたディアナと、一人の女性。

薄い柔らかそうな金髪に、紫の瞳と上品そうな顔立ち。エステルより20歳は年上であろう見た目だが、その顔立ちはまだ30代くらいに見える。
あまり派手すぎず、そして地味すぎないドレス。
一見して貴族以上の華やかさと上品さが見てとれる。

エステルに気付き、その女性は深々と頭を下げた。

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