小説 | ナノ


▼ 03

―――1月の末。約束の日になった。


「これくらいで、大丈夫かしら」

エステルはベッド周りの調度品をチェックしながら言う。

適度にシンプルだけど、窓際に白と水色、それから黄色の花を飾っている。
これはただのエステルの趣味だ。花があればなんとなく場が華やかになる。


男性が来ても女性が来ても大丈夫なように、華美過ぎない程度だが上品なつくりの調度品を置く。これで大丈夫だろう。

「お花綺麗だね」
「有難う。お花飾ると、なんか心洗われるかなと思って」
「いい感じだと思うよ」

通りかかったエドヴァルトが褒めてくれて、エステルは嬉しそうに笑う。
こんなちょっとした気遣いをすぐに気づくエドヴァルトの観察眼は凄いと思う。


エステルはそれから宮殿に戻った。
そこから、掃除の時に汚れてしまった服を取り替えて、新しいドレスに着替え、身支度を整える。

何かあったときのために、応接室の隅にディアナに待機してもらった。


今回はエドヴァルトが側にいない。
実はトスカナの方の使者が報告に来ているので、そちらの方をエドヴァルトにはお願いしている。


1人だからこそ尚更…気を引きしめなければ。


応接間でお茶を入れて待機していると、女官の小さな声が聞こえた。

「陛下。クレムリンの使者の方がいらっしゃいました」
「わかったわ。お通しして」
「かしこまりました」


エステルは背伸びを伸ばして、座り直す。
数分後、応接室のドアがもう一度ノックされた。

「どうぞ」

エステルは緊張を隠しながら返事をする。
応接間のドアが開き、二人の人物が入ってきた。


2人が女性で、1人が男性だった。

1人が真っ黒で豊かな巻き髪で華やかな女性。もう1人が水色の髪色だ。
2人とも光が当たると少しラベンダーのような紫の色に見える綺麗な色だ。

ぱっと見、3人はエドヴァルトと同じくらいの30代前半くらいに見えた。
黒髪の女性は紺色のドレスに身を包み、水色髪の女性は黒髪の女性の一歩後ろを歩く。

男性の方は少し緑が混じったような金髪で髪は前髪が少し長いが全体的には短髪な方だ。ツリ目な黄緑色の瞳はちらりとエステルを見てにっこりと笑みを浮かべる。…が、顔つきがどちらかというと怖いので、笑顔を向けられても、正直目が笑っていないように見えた。

剣を腰に差している所を見ると、この2人の護衛なのだろう。


「おかけになってくださいませ」

エステルは三人に椅子を勧め、女官に紅茶を持ってくるように頼む。
三人とも椅子に座る。口を開いたのは、黒髪の女性の方だった。


「お初にお目にかかります、シェーンブルーの女帝様。」

凛とした声というより、鈴の鳴るような甘い声だった。
にこにことほほ笑む女性は小悪魔的な魅力を持つ印象だ。

「ふふ。私、リュドミラ・エリザヴェータ・ペトロヴナと申しますわ」
「初めまして、私がシェーンブルー王のエステル・テレーゼ…」
「あー、えっと…申し訳ないわね、長い名前は覚えられないの。エステルでいいかしら?」
「え、あ…はい」

リュドミラ、と名乗った女性はにこにこしながら顔に手を当てながらエステルに言う。蠱惑的に弧を描いた唇と、赤いつやつやの口紅が目に痛い。


「それで、同盟を結んでくださるとのことで…とても嬉しいです」
「ええ。私自身、シェーンブルーとは母の時代にお世話になっているので、好印象ですわ」
「有難うございます」

エステルが緊張で表情が強張っているのがわかったのか、リュドミラはにこにこ微笑む

「あら、やあね。そんな硬いお返事。女同士なんだからもう少し可愛い言い方したらどうかしら?」

リュドミラは立ち上がってエステルに近づいた。
そして、エステルの手に指を絡ませて、いわゆる「恋人繋ぎ」のようにした。

「!」
「あら、身長もですけど手も小さいのねえ。可愛らしいわぁ」
「や、やめ…!」

女性にこんな風にされるのは、妹のミルカ以来だ。
いや、ミルカよりも「大人なお姉さん」の魅力溢れるリュドミラにエステルの心臓は吃驚して鼓動が早くなった。

「リュドミラ様、おふざけが過ぎます」

水色の女性の方が、リュドミラの肩に手をかけた。
その女性を振り向いて、リュドミラは唇を尖らせた。


「えー。…どうして止めるのよ、カテリーナ」
「他国の女王に失礼があっては困ります。真面目な場でお戯れをするのは禁止です」


淡々と答えた水色の髪の女性…カテリーナと呼ばれた女性は、膨れっ面になるリュドミラを宥めながらほぼ強引に椅子に座らせる。

エステルは、彼女は自分の所で言うバルト公のような、宰相枠か政治の重臣的な立場なのかと思う。はあ、とため息をつきながら自身もイスに深く腰を掛ける。


「エステル様、失礼しました」
「いえ…」
「リュドミラ様。失礼があっては困りますよ。本気で。僕も口説き体の我慢しているので…」

男性もリュドミラに釘を刺す。
ただ、聞き捨てならない言葉が聞こえたのは何故だろうか。私は既婚で、愛人とか作らない主義だと主張すべきか…。


「セーニャ」
「あ、すみません、…カテリーナ様」

カテリーナがエフセーイをギロリと睨む。赤い瞳がまるで猛禽類の鳥のような瞳になり、眼光が鋭くなる。そんな彼女に睨まれて、エフセーイと呼ばれた男性は「冗談ですよ」と笑う。本当に楽しそうに笑っているように見えた。


「お茶でもどうぞ。クレムリンは紅茶も有名だとお聞きしたので…シェーンブルーの老舗の紅茶の茶葉です」

女官に持ってきてもらった紅茶をカテリーナやエフセーイ達はカップに口をつける。仏頂面から表情が変わったリュドミラ。
彼女は口元を押さえて呟いた。

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