小説 | ナノ


▼ 02

「そうね…でも、さすがにいじめではないと思うけれど…」
「でも、読むのも非常に苦労したじゃないか…。」
「どうしてだろう…」
「考えられることは…敵軍にこの手紙が渡っても大丈夫なように、とかかな」

エドヴァルトが欠伸をしながら手紙を眺めて言った。
エドヴァルトの考えも一理ある。確かに、もしゲルマニクス軍がクレムリンの使者を怪しんで捕らえた場合。手紙の中身を見られてもクレムリンの言語なら、「帝国」近辺の国の人は読むことが出来ない。


――その為の配慮の為?
幸いにもこの手紙には宛先やエステル。リュドミラなどの言葉はほぼ入っていなかった。解読に時間がかかったとしても、シェーンブルー宛だとは思わないだろう。


「本当にそうだといいけどね…」

エステルはぽつりと呟いた。
また次の日にバルト公に翻訳文章を見せながら説明しなければ、と思いながら二人はそのまま眠りに落ちた。


そして、エステルはバルト公に文章を説明しながら文章を見せた。



リュドミラからの手紙を大体の感じで翻訳して見た結果。

『シェーンブルーの女帝エステル様、そして共同皇帝のエドヴァルト様へ。同盟の申し出、感謝いたします。

今回の同盟の件は、こちらもゲルマニクスの事で思う所があったのでお受けしたいと思っております。重臣の者にシェーンブルーの国の事を見ておきたいと思った為、私の重臣を使者として派遣いたします。

1月の月末頃にお伺いしたいと考えております。ご検討の程よろしくお願いします』

と、丁寧な言葉で書かれてあった。


「好意的なお返事ね。よかったわ…同盟を結んでくれるって」
「よかったですね、エステル陛下」

バルト公もほっとしたような表情になった。


「1月の終わりに使者が来る…ってことは、その時までにいろいろ考えを煮詰めたいわ。あと、どれくらいあるかしら。」

エステルは、カレンダーを見る。
今は12月の終わりくらいだ。あと、1ヶ月くらいはある。


「1月って行事あったかしら…」
「1月の始めにひとつ。それ以降は特にはありません」
「なら、準備はゆっくりできるわね。それまでに私はクレムリン語をある程度理解できるようにしないといけないわね」

気が重くなる、とエステルはため息をつきながら手紙を片付ける。

「それはお返事を返すときに『共通語でお話ししたい』と書いてもいいのでは?そうしたらたぶん、通訳の方も連れてくると思いますよ」
「そうね。じゃあお返事にはそう書いてみるわ」


エステルはぱっと明るい表情になった。

「とりあえず、失礼のないようにすることだけを心掛けましょう。クレムリン式のおもてなしや食事なども出せるように料理長にも言っておいてね、バルト公」
「かしこまりました」
「離宮の方も、客室の手入れとかも…その件はフォティアにお願いしてみるわ」

エステルは今やるべきことを別の紙にメモし始める。
今書いていることは女官長のフォティアに頼む事をピックアップしている。


「あと1ヵ月ありますので、そんなに急いでする必要はありませんよ。それより、1月の月初の行事。エステル陛下も体調だけは気を付けてくださいね」
「…はい」


バルト公ににこっと微笑まれながら嫌みを言われる。

実は去年、イシュトヴァーンでパレードや儀式が行われたことがあった。しかし、その時に体調を崩してパレードを延期、儀式の方は同じ皇帝であるエドヴァルトに代理で行ってもらった。

熱が出たわけではなかったが、酷い貧血症状と吐き気が凄かった。
エドヴァルトは気まずいよ〜、とずっと泣き言を言っていたが、バルト公にしっかりノウハウを教えてもらった為になんとか儀式を行う事が出来た。


体調管理には特に気を付けないと、リュドミラに「病弱な女王」と印象つけられたら大変だ。それによってなめられでもしたら、こちらのプライドがズタズタだ。

「もちろんわかっているわ。ご忠告有り難う。」

貴方も老体なのだからお気をつけて、と心の中でバルト公に嫌味を言いながらにっこりと微笑んだ。


バルト公に頼り切っているけれど、本来なら隠居する年齢に差し掛かっているのだ。最近頭痛が多い、とか疲れやすい、というのをちらほら聞く度にバルト公の体調が心配になるのだ。

「ご忠告が無駄になりませんよう。エドヴァルト様にも言っておきますね。たくさん眠るようにお願いします、と」
「…」

彼の心配性や皮肉ぶった言い方には慣れている。淡々と言いながら、実は心配の塊のような彼の小言もちゃんとわかっている。

ただ、言われっぱなしでは面白くないので内心は嫌みを言うことくらい許してほしい。



***

そして1月の終わり。

シェーンブルーには大雪が降った。
街で雪まつりのようなものが行われたり、郊外では道が雪で覆われてしまう程の大雪だった。


「今日、クレムリン帝国から使者の方が来るから準備するわよ」


大雪のなか、エステルは離宮の中を大掃除するように告げ、宮殿も一緒に大掃除した。

少々着込んでいたので動きづらくて仕方なかったが、女帝と皇帝(王配)自ら客室や自室を掃除している姿を見て、慌てて女官や執事達も掃除にはいる。

「エステル様、お部屋は何部屋準備しますか?」

フォティアがエステルに何部屋準備をするか聞いた。
一応客室は、1人部屋もあれば3,4人が一緒に過ごせる部屋がある。


「何人来るかははっきりとは書いていなかったのよね…。2人から4人くらい、と書いてあったから、大部屋の方と念のため1人部屋を2部屋掃除してもらえる?」
「かしこまりました。」

すぐさまフォティアを筆頭に女官達が掃除に向かってくれた。

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