◎ただいま(星王)
女の子らしくピンクと白で揃えられたお部屋。 天蓋つきの白のベッドと薄いピンク色のクッション。 リボンとフリルと宝石が大好き。レースやリボンの多いたくさんのフリルのついたドレスがベッドに並べられている。
その中に一人の少女が、顎に手を当てて悩んでいた。
赤褐色の茶髪はふわふわと波打っており、柔らかそうな髪を上でハーフアップにしている。黄色の薔薇の髪飾りには、白いリボンも添えられており…可愛らしい見た目を引き立てるようだった。緑の瞳は女の子らしくて大きくて丸い。髪色と同じ色の睫も長い。
彼女は、シェーンブルー王国の第二皇女、ミルカ。それが彼女の名前だ。
その彼女は、今日着るドレスを悩んでいる。 彼女のドレスが決まらないことには、女官達も彼女に化粧が出来ない。 ドアの外で何度も部屋の主であるミルカを呼ぶ声が聞こえる。
「待ってってば!今ドレス悩んでるんだから」
彼女がこんなにも悩んでいるのは、理由がある。 姉であるエステルが、友人であるとある姫に手紙を送った。 その使者に抜擢され、20年前まで敵国であったギュルバハルに行っていた自分の旦那様である、アイザックが帰ってくるのだ。
アイザックとの馴れ初めは姉夫婦ほどのドラマや美談の話ではない。 ただ、姉の結婚式で会った彼にミルカが一目ぼれして結婚したいと姉と、義兄になったエドヴァルドにせがんだのだ。
無論、皇帝であり父であるバルタザールも母のエリーザベトもいい顔をしなかった。
「政略結婚」で国同士の同盟や結びつきを強く望むエスターライヒ家にとって、他国との王子と結婚させられるのが普通だ。自分の両親も、祖父も、一族みんなそうだ。
エステルとエドヴァルトは、「又従兄妹(はとこ)」の関係、それに『エスターライヒ家とロートリンゲン家』の過去の縁、エドヴァルトへの詫びの気持ちもあったバルタザールの決断ゆえの結果なのだ。
しかし、エステルは皇位継承1位であり自分は2位。 滅多なことでは皇位継承などありえないし、ミルカ自身もなる気はない。 どうせ、いつか出来る甥が継ぐだろうし…、と呑気な考えである。
反対はされたが、結果的に義兄であるエドヴァルトがアイザックを呼び出してミルカとの逢瀬に協力をしてくれた。そのお陰で、結婚まで何とかこぎつけたのだ。
「うーん、どーしよっかなあ」
ミルカが悩んでいるのはピンクの可愛らしいドレスと、青紫の少しクールめのデザインのドレスだ。後者はフリルは少ないものの、レースが多くてどちらかというと色気を感じるようなデザイン製。
いつも彼女はピンクを基調とするものを着るのだが、たまには寒色系の色合いもいいかもしれない。ためしに鏡の前で体に当ててみるが、ミルカはすぐに眉毛のへの字に下げた。
スタイルがいい女性には非常に似合うかもしれない。 しかし、ミルカはあまり胸は豊かではなく…コルセットや下着で底上げしてもたかが知れている。
ため息を吐いて、いつものようにピンクに手を伸ばす。 そして、部屋で待っている女官に声をかける。
「遅くなってごめんね。ドレス決めたから、コルセットとか、手伝ってくれる?」 「かしこまりました」
青紫は、アイザックの髪色と同じものだ。 だからこそ、いつもと違うものを着たかったのだが…。 少しムスっとした表情に、女官の子は何か不手際があったかとソワソワしていたが、彼女に非はない。
なんとか化粧まで終わったミルカは、
「今度は青紫でもとっても可愛いのを、頼もうかしら」
「ミルカ様、ただいま戻りました。アイザックです」 「入っていいわ、アイザック様」
どうせなら、驚かせてやろう。 そう思ってミルカはドアの前に立つ。アイザックが入ってきたら思いっきり驚かせて抱きついてやろうっと。そんな心の声が顔にも声にも表れているほどの浮かれっぷりだ。
「失礼しま…へぶっ」
ドアが開いたと同時に衝撃がアイザックを襲う。 ミルカが思いっきり抱きついてきたのだ。 受け止められずに、彼は尻餅をついた。
ついでに言うと、ミルカも抱きつこうとした途端に彼の胸元の勲章に額を思いっきりぶつけ、額を押さえている。たぶん赤くなっているだろう、と思うくらいに痛かった。
「倒れることないじゃないの!受け止めてよー!アイザック様!!」 「す、みません。大丈夫ですか…?」 「私も、悪かったけどー…ごめんねアイザック様。おかえりなさい」 「ただいま、ミルカ様」
アイザックはミルカの赤くなった額にそっと唇を寄せ、ミルカの手を握った。 ミルカの手にアイザックの大きな手の感覚と薬指に当たる指輪の存在に気づき、にこにこと笑いながら、アイザックの頬に口づけをした。
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