◎短くても可愛い(星王過去編)
2月のある日。当日は私とエドヴァルトの結婚式であった。 2年前に大けがをした彼は、なんとか杖を使ってだけど歩けるようになった。 その事に人目もはばからずに大泣きしたものだ。
あとから思い返すと少しだけ恥ずかしい。化粧も落ちちゃったし。 今、彼は男性の看護士と一緒にお風呂に入っている。
私は寝室で鏡を見ながら待っていた。鏡に映る自分は、化粧も落としていつもより幼げに見える。やはり口紅は大事かもしれない。 そして、髪。問題の髪…。
母譲りの金髪で、毛先が少しだけ薄い紅色っぽく見える。のだが…その長さは、ボブくらいの長さ。以前…、彼に求婚したときは背中くらいまでの長さで、髪を巻いていた。 しかし、そのあとに「皇太子」というのに拘って「男装しなければ」と思ってしまい…長い髪を…男の子のような短い髪にしてしまった。
父や母にしこたま怒られて、なんとかウイッグでごまかしていた。 結婚式も女官達に手伝ってもらって、付け毛とウイッグで可愛くしてもらった。 問題は寝るときである。ウイッグを脱がなければならない。
「ね、フォティア…どうしよう」
私は近くにいた女官であるフォティアに聞いた。彼女は私の幼馴染だ。
「どう…と言われましても…。エドヴァルト様に伝えなくてはなりませんね」 「…」 「とりあえず、二人きりになられたときに告白なさってはいかがでしょうか。それまではウイッグ被りましょう」
フォティアは長髪のウイッグを私にかぶせた。
ちょうどそのタイミングで、エドヴァルトが帰ってきた。 執事たちの手を借りて、やっとこさベッドに腰かけたエドヴァルトはすごく疲れているように見えた。青色のガウン姿に、髪の毛もおろしている。肩より少し長いくらいの髪で、おろしていると彼も若く見えた。いや、27歳なんですけどね。
「ごめんね、遅くなっちゃった」 「い、いや…」 「エステル様、エドヴァルト様。私たちはこれで失礼します。おやすみなさいませ」
フォティアは礼をして、部屋から出て行った。
「…」 「…」
き、気まずい。何か喋ったほうがいいのかな…。
「エステル」 「な、なに?」
思わず声が裏返ってしまった。 その様子に、彼はお腹を押さえて笑い出した。
「わ、笑わないでよ」 「ごめんごめん、緊張してるなあって思って…!」 「もー!エド!!」 「ごめんってば!」
大笑いされたおかげで、緊張していた気持ちが少しだけ和らいだ。あ、髪のこと言わなければ。
「エド、あのね」 「どうかしたの?」 「そ、その…言わなければいけないことがあって…」
彼の目の前で、ウイッグを取った。彼の目が大きく見開かれた。毛先が首に少し当たり、くすぐったかった。やっぱり驚いてる。
「あ。えっとエドに会った後にちょっといろいろありまして…髪を自分で…」 「き、っちゃったの…?」 「うん」
お互い沈黙。そりゃそうかも。昔、「エステルの髪は長くて綺麗だね」と褒めてくれたのだ。 嫌いになったらどうしよう…と気持ちが落ち込んでしまった。 私はこうなるとネガティブ思考から抜けられなくなる。だんだんうつむいていく私に。
「エステル、顔上げてくれる?」
顔を上げると、いつのまにか目の前まで移動しているエドヴァルトの綺麗な顔があった。群青と青の中間の綺麗な瞳は、真剣に私の目を見ている。
「髪が短かろうが、エステルはとってもかわいいよ」 「お世辞はいらないわ。ちんちくりんで変でしょ?」 「そんなことないよ。とっても可愛い」
一気にエドヴァルトが笑顔になった。デレデレしたような優しい顔。私はこの笑顔が昔から好きだ。
何度も彼は私の髪を触る。指を通してすーっと手櫛で梳いたり。
「く、くすぐったいってば」 「そう?これだけで顔真っ赤にしてたらダメだよ?」
一房私の髪をすくい、ちゅ、っと口づけた。
「俺は、どんなエステルでもすごく愛しいし可愛いと思う。髪が短かろうと長かろうと…。 本当に大好き。愛してる」 「エド…」
彼は私の頬やおでこにも唇を近づけ、口づけをする。愛おしそうに。壊れ物を扱うように優しい手つき。
彼が私の顔に手を添えてきたのて、その手にすり寄る。あったかくて大きな手。ガウンの袖から見える手首に少しだけ残っている傷が痛々しい。すりすりする私の様子に、彼は愛おしそうに見つめる。
「猫みたいだね、エステル」 「ふふふ」 「やっと、エステルが俺のものになったことが嬉しいなあ。もう、人目を気にせずに抱きついてもキスしてもいいんだよね…嬉しい」 「もう…」 「エステルはどう?うれしい?」
答えるよりも先に、私はエドヴァルトの頬に口づけていた。
「嬉しいに決まってるわ…!6歳の時からずっと夢見ていたんですもの」 「そっか。とっても嬉しい。幸せ」 「私も」
お互い見つめあい、そのまま唇に口づけをした。 結婚式の時より、とっても甘くて…とろけるような感じがした。
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