結局あたしはこの1週間ロビンを避け続けて、正直もう限界です。
いったいこれはなんの我慢大会よ、と自嘲の笑いを思わず浮かべたくなる。
せっかく楽しいはずの学園祭なのに。


でも今更仲直りなんて自分からはできない、というかしたくない。
そもそもロビンはあたしがなんで怒ってるかさっぱり分かってない。
だから、なんの問題の解決をせずに前みたいに元に戻るのはなんだか違うと思う。


ロビンは、今の現状で満足してるのかな。
あたしはもっとロビンに触れたいと思う。
あたしにもっとロビンの気持ちを伝えてほしいと思う。

ロビンにとっては、そんなこと重要じゃないのかもしれない。


あー考えれば考えるほどへこむ。


それにあたしを差しおいて他の子と学園祭を楽しむなんてっ!!


ロビンのばーかっ







学園祭当日。

いつものようにビビと一緒に登校して、教室に入ろうとドアに手をかけようとしたら、その前にガラガラと勢いよくドアが開いた。

「な、なにごと!?」

「よしっドラキュラ役を捕獲!!」

衣装係の子たちに両脇をがっちりと掴まれそのまま教室の奥へと連行。

「ヘルプミー!!」

とっさにそばにいた親友に助けを求めるけれど

「ナミさん頑張ってー」

むしろ丁重に送り出してくれた。
この裏切り者っ
覚えてなさいよ!!


あっという間にメイクをされて、そのまま衣装と共に更衣スペースに押し込まれた。
おそるべし衣装係……
なんか髪をオールバックにされてすごい違和感があるんだけど。
とりあえず用意された白いシャツとタキシードみたいなのを着て、最後に黒いマントを身にまとって更衣スペースから出たら、

「きゃーっ
ナミかっこいい!!」

鏡を見たらけっこう本格的でびっくりした。
なんかカシャって携帯で撮影されてる音がいろんなとこからするけどあえて無視。
げんなりしていたらちょうど教室の前を通りかかったポーラ先生が来て、

「あらナミ、似合ってるじゃない」

そう言ってにやにや。
げっ、見られたくない人にに見られた…
絶対面白がってるわこの人。

「全然嬉しくないんだけど」

そんなこと言うならポーラ先生も参加すればいいのに。
魔女役とかでさ。
ていうかロビンのことで頭が痛いのに、他人をおどかして楽しむ余裕なんて全くないです。

「なんだかやる気ないわね」

「そんなことないよ
ほら、うらめしやー!!」

心配かけたくなくて、やる気をアピールしようと襲いかかるポーズをしたら

「ナミ、なんかもう色々と突っ込むのが面倒だわ」

ポーラ先生が呆れ顔。
…せめて笑ってくれたっていいじゃん。

「なんだかさっきロビンを見かけたとき、元気無さそうだったけど」

ああもうっ、色々バレてるし。
もしかして…いや、もしかしなくてもそれであたしの教室に来たのね。
ポーラ先生には結局心配かけちゃって申し訳ないけど、でもあたしからはロビンに謝らない。
それにロビンが元気無さそうだったなんて気のせいだよ。

「ふーん、そうなんだ」

当たり障りのない相槌を打ったら、ポーラ先生があたしの目をじっと見て、

「……まあ、ケンカはほどほどに」

そう言って去って行った。
なんでもお見通しなのか……いつもいつもすいません。








この学校の制服を着ていない人達が校内にあちこちにいるというのは、とても新鮮だと思う。
学園祭は予想以上に盛り上がっていて、なんだかあたしだけが浮かない顔をしている気がする。


たくさんの出店がそれぞれにおいしそうな匂いを漂わせているのに、あたしは客引きのためにドラキュラ姿で校内を1周したときに買った焼そばしか食べてない。
知らない男たちにナンパされたり、後輩の女の子から撮影をせがまれたり。
ああもうっ!!
もっとゆっくりまわりたかったのに。

何より苛々するのは、
ごった返した人混みからあたしじゃない誰かと一緒にいるロビンを無意識に探してる自分に気づいちゃったこと。
外にいても気が滅入るだけだからさっさと自分の教室に帰ろうかな…


足早に教室に戻ったら、お化け屋敷目当てのお客さんが長い列を作っていて、受付をしてたビビがあたしを見るなり

「ナミさんっ
ちょうどよかった、今すぐ中に入ってスタンバイして」

そう言ってあたしをすぐに教室に入れた。
中はすごく薄暗くて、中で待機してたクラスの子によく分からないまま案内された。

「ナミはこの壁に隠れて、誰かが来たら後ろから近づいておどかしてね」

「りょーかい」

言われた通り、壁に隠れて誰かが来るのを待った。
あたしの持ち場は出口付近で一番暗いような気がする。
目が暗さに慣れてきてやっと前がぼんやりと見渡せるレベルで。
なんかお客さんが来るのを待ってるあたしの方がけっこう怖いんだけど。
いろんなとこから悲鳴が聞こえてくるし…


段々こっちに近づいて来る足音が聞こえてきて、身構える。
やっとあたしの出番がまわってきたわね。

「こわいよー」と騒いでる女の子と、「俺がついてるから」とかなんとか言ってる男の声がして、素早くまわりこんで後ろから「うおー!!!」と襲いかかる。
二人とも「ぎゃあーっ!!」と大きな悲鳴を上げながら一目散に逃げていった。
あたし…ドラキュラ役、向いてるのかも。

そのあとも次から次へと誰かが来るたびにおどかして 、しかもカップル率が異常に高いから余計仕事に熱が入る。

あたしはは好きな人とケンカして落ち込みながらもドラキュラやってるっていうのに、なんで続々とカップルが湧いてくるのよっ
世の中って不公平すぎる。


いい加減うんざりして、もうサボろうかなと思い始めたとき、
カツンカツンとヒールで歩く音が近づいてきた。
耳を澄ますとその足音はひとり分だったから、女一人でお化け屋敷に来て何が楽しいのかと余計な疑問を感じながらも壁に隠れ息を潜めて待った。


ヒールの主の長身ですらっとした影ががあたしの前を横切って
よし今だ、と飛び出して襲いかかったらいきなり抱きしめられた。

な、なに!?
もしかして痴女……

思わぬ状況で頭が混乱して、それでも離れようともがくけど離してくれなくて。

「ちょっとやめっ…」

「ナミちゃん」

抵抗しようと大声で叫ぼうとしたら、小さな声で囁かれた。


「ロビン…?」

「…………」

問いかけても答えてくれないから、目をこらして顔を確かめようとするけどよく見えない。

「ロビンなんでしょ?
なんで何も言わないのよ」

「…………」

あたしを抱きしめる腕から
頬に触れる首筋から
甘い甘いあたしの大好きな匂いがするのが何よりの証拠なのに。

急に現れて抱きしめといて何も言わないなんて、ロビンが何をしたいのかわからない。
溜った怒りをぶつけようとしたら、顔をぐっと上げさせられてそのままロビンに唇を奪われる。

「んんっ………ふ」

唐突なキスに驚いてわずかに口を開いたら、するりとロビンの舌があたしの口内に侵入してきた。
長身のロビンに合わせて顔を上げられているせいで一度口内の侵入を許したらあとはロビンの舌を無条件に受け入れるしかない。
奥に引っ込んで逃げようとするあたしの舌を捕まえて絡めとって、今度は歯列をまさぐられて。

「ん……はぁっ…」

そろそろ息がもたなくなりそうだと思い始めたとき、あたしの頬に冷たい雫がぽたりと落ちてきて、それが涙だと認識した瞬間ロビンが静かに顔を離した。

いきなりのロビンからのキスにとにかく驚いて呆然としていたら、

「ごめんなさい」

ロビンが震える声でそう言った。

「え?」

「この間、ナミちゃんのキスを冷たく拒否してしまったから」

「………うん」

「でも言い訳になるかもしれないけれど、あれはナミちゃんとの関係を隠さなくてはならなくてとっさにした判断なの。
この関係が露呈してナミちゃんと離れ離れになるのは、……いやだから」


ロビンに合わせて大人になったつもりでいたけど、あたしはまだまだ子供だった。
ロビンはこんなにもあたしたちの関係をきちんと考えてくれているのに、それに比べてあたしはわがままでロビンを振り回して。

「謝るのはあたしの方だよ
ロビンはあたしに触れられるのが嫌なんだと思って勝手に一人でうじうじしてた
ロビン、ごめん」

ロビンの気持ちがわかって自分の考えが誤解だったんだと気づいた途端、安心して体の力が抜けて床にへたりこんでしまった。

「ナミちゃんっ、大丈夫?」

ロビンもしゃがみこんで心配してくれる。

「ロビンがいきなり熱ーいキスしてきたせいだからね」

「そ、それは……その
ナミちゃんがわたしを避けるから…」

そう言って口ごもるロビンがすごく愛しい。

「だってキスの件もそうだけど、ロビンがあたしの目の前で他の子と学園祭をまわる約束するんだもん…」

「もしかしてナミちゃんはそのことでも怒っていたの?」

訊かれてがっくりした。
まさか気づいてなかったとは。

「そうだよっ、まったく…
ていうか約束した子たちはどうしたの?」

「断ったわ
…ナミちゃんと仲直りしたかったから」

「…………ふーん」

その一言ですっかり機嫌がなおったけど、嬉しさで上擦る声を必死に抑える。

「気づかなくてごめんなさい
機嫌なおして?」

「……じゃあキスして
キスで仲直りしよう」

「え?
でもさっき…」

「さっきのはカウントされません」

ロビンが何か言い訳しないうちに素早く逃げ道を塞いでおく。

「……ナミちゃんはいじわるだわ」

「じゃあロビンは泣き虫だね」

「…っ!!、……なんのこと?」

言い逃れ出来ないように、そっとロビンの頬にキスをして涙を舐めとった。
暗いからって涙を拭わずそのままにしてるロビンが悪いんだからね。


うそつき、って言おうとしたらロビンに吐息ごともっていかれた。




<あとがき>
実はこれまだ続きます。
次でやっと学園祭編の完結です。
身長差があると背が低い方は首が痛いよね。
あと体勢的に受け身なキスになるよねっていう話です(笑)
切羽詰まったロビン先生はナミちゃんとの身長差を利用して主導権を握るという…
身長差の件を承諾してくださった紫桜さん、ありがとうございます。
少しだけ要素を盛り込ませていただきました。






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