ガラガラと扉が開いてこんな時間にだれかしらと振り向けばナミちゃんがいて、嬉しくて笑みが溢れた。

どうしたの?と尋ねたらダンボールをもらいにきたらしく、ちゃんと学校行事に参加しているみたいで安心したわ。
本人に言ったらふてくされちゃいそうだから言わないけれど。


備品の山からダンボールを探していたら、そっと肩に手を置かれて。
なにかしらと振り向こうとしたら後ろから抱き締められた。

ナミちゃんに触れられるといつも動悸が激しくなる。
恥ずかしいけれど嬉しくて、優しく触れる手からナミちゃんの想いが直接伝わってきて、心がじんわりと甘くしめつけられる感覚。


「ロビン、ポニーテールすごく似合ってる」


そう囁かれていきなりナミちゃんがうなじに優しくキスをするから、とても驚いてしまった。
作業の邪魔にならないよう無造作に髪をまとめていただけなのに。


「やっ……ちょっと…、ナミちゃんっ」


なんだか少し体の力が入らないのは気のせいだと思いたいのだけれど…
そんなつもりじゃなかったのに体が熱くなってどきどきしてしまう。

そういえば、わたしたちそういったこと以前に、まだキスすらちゃんと交していなかったのね。

わたしが保健室で寝ているナミちゃんにした時とナミちゃんがいきなりしてきた時と、告白の時の3回だけ。

抱き締められたり手を握ったり、たまに頬にキスをしてくるくらいでなんだかそれで精一杯になっていた。
なによりも学校でそれ以上のことをするのはあまりにも危険で、もし誰かに見られたらわたしたちは一緒にいられなくなるから。
それだけはいや、だから。


そんなことを考えていたらナミちゃんがまさにキスをしてこようと顔を近づけてきた。
どうすればいいのかしらとためらっていたら、廊下から生徒の声が聞こえてきて、思わずナミちゃんのキスを拒否してしまった。


「ナミちゃん、あの……」

ごめんなさい、嫌ではないのと謝ろうとしたら女の子が3人教室に入ってきて最後まで言うことができなかった。


「先生ー
ビニールテープありますか?」

がやがやと楽しそうな女の子たちとわたしたちの取り巻く雰囲気はまるで逆で、とてもいたたまれない。

机の上に置いたビニールテープをその子に渡したら、今度は別の子が

「今日の先生、かわいい髪型ですねー」

そう言ってわたしの髪に触れてきた。
他の子に触れられても何も感じないのに、どうしてナミちゃんだとあんなに取り乱してしまうのかしら。

「そう? どうもありがとう」

ナミちゃんの方を見たら、なんだか顔をこわばらせていて…やっぱりキスのこと怒ってる?


「そういえば先生って学園祭は誰かとまわるんですか?」

もうひとりの子にそう尋ねられて、ナミちゃんで頭がいっぱいだった思考を素早く切り替えた。

「今のところ予定はないわ」

学園祭は生徒が中心の行事だから、誰かと一緒にまわるなんて考えもしなかった。
当日、わたしがすることといったら校内を見回るくらいだから。
それにナミちゃんが今まで誘ってきていないということは、きっとクラスの出し物で忙しいからだろうし。
あるいは学園祭自体に興味がない…とか?


「えーそうなんですか
じゃあ私たちとまわりましょうよ!!」

「ええ、いいわ」

特になにも考えずに承諾したら、ナミちゃんが今度はうつむいてしまった。
どうしたのかしら…もしかしたらお腹痛いの?

心配になって声をかけようと思ったらナミちゃんはがしっとダンボールをつかんで

「それじゃあ先生、失礼します」

棘々しくそう言って教室から出ていってしまった。

ナミちゃん………
なんだかとても怒っていたわ。
キスのことかしら?
それとも具合悪いの?







あれから授業中や廊下ですれちがうとき、ナミちゃんは全くこちらを見ようとはせず、ぷいって顔を背けてしらんぷりをするようになった。
とにかく怒っているわけを知りたくて、謝りたくて二人きりになれる機会を窺うけれど、ナミちゃんは準備に忙しいみたいだし、いざ話しかけようとするとすぐにわたしを避けて逃げてしまうから。

なんだかすこし、涙が出てきそうだわ……


いてもたってもいられなくなって
夜、思いきって携帯を取り出してメールをしてみた。


"ナミちゃん怒ってる?
わたしを避けているような気がするけれど"

かなしくて不安で携帯を握りしめたら、すぐにナミちゃんからの返信。


"自分で考えてください
あたしは先生の考えてることがわかりません"


……敬語や呼び方に距離感を感じるわ。


わたしの考えていること…?
わたしはナミちゃんが好きで、ナミちゃんもわたしを好きでいてくれて、うまくいっていると思っていたのだけれど。
やっぱりこの間のキス、かしら。
拒絶するようなかたちになってしまったから。


"ごめんなさい"

とにかく謝罪したくて送ったけれどナミちゃんからの返信が来なくて…


「ナミちゃん……」

どうしていいか分からなくて近くにあったクッションをぎゅっと抱きしめた。





ナミちゃんがわたしを見てくれないことがこんなにもつらいなんて。
なんだか本格的に泣いてしまいそう、だわ。



<あとがき>
鈍感なロビン先生のターンです
思っていることが伝わらないからナミちゃんを不安にさせているけどそれに気づかないっていうのがロビン先生らしいと思います







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