「ナミさんは、ロビン先生が好きなのね」

「……………」

ビビのその一言にただ首を縦に振ることしかできない。
言葉にすれば、あたしの心はきっと壊れてしまう。
こぼれそうになる涙を必死にこらえようと顔を上げて空を仰いだら、ビビがそっとあたしの頭を抱えるように抱きしめた。

静かに溢れてしまった涙がビビの制服に染みをつくり、あたしはやっと声を出して泣いた。



あたしは本当に最低だ















いろんなものが色褪せて見える。
ためしに目を擦ってみるけど視界は変わらずセピア色をしていて、仕方なく溜め息をつく。

「ナミさん、もう帰る?」

「ううん、今日は部活行くから」

「そう。…大丈夫?」

「うん、ありがとう
じゃあまた明日ねー」

あれからビビは、なるべくあたしのそばにいてくれるようになった。
生徒会で忙しいはずなのに、昼休みや放課後はあたしをひとりにしないように気をつかってくれる。
ビビに心配かけないためにも、なるべく普段通りにしているつもりだけどうまくやれてないみたいで。
ありがとう、と感謝してもしきれない。


ゆっくりとした足取りで社会科資料室へ向かう。
この想いが届くことはないとわかっていてもあの部屋に通うのは、それでもロビン先生に会えないのがなによりもつらいから。
この往生際の悪さが自分の首をきりきりと絞めているのはわかってるけど、息ができなくてくるしくても顔を見たいと思う。
声を聞きたいと思う。

たぶんこの想いはどうしようもないところまできている。
あきらめや我慢なんかからずっと離れた場所まで。



「失礼します」

「いらっしゃい、ナミちゃん」

いつもの挨拶を交した後、席について本を鞄から引っ張り出す。
黙々と本を読むこの静かな時間を愛しく思う。

「ナミちゃん」

「ん?」

「ここ最近、ずっと思っていたのだけど顔色が悪いわ
日に日に悪化しているような気がするけれど大丈夫?」

「そう? 別に普通だけどな」

食欲なんかまったくなくて、睡魔がいっこうに襲って来ないから睡眠時間も足りてない。
そんなのが普通なんてとても言えないけど、にっこり笑ってそう答える。
うまく笑えていればいいけど。

「でも少しやつれているわ
保健室に行きましょう?」

ああなんか、今一番聞きたくない単語が聞こえた気がする。

「大袈裟だよ先生
ちょっとダイエットしてたからその成果がやっと出てきたのかも
あ、そうだ。あたしコーヒー入れるね」

話を強引に中断してコーヒーを入れようと席を立った途端に足がふらついた。
なんだか頭がくらくらする。

「ナミちゃんっ
大丈夫? やっぱり保健室に行きましょう?
わたしもついて行くから
今ならまだポーラ先生がいると思うわ」

ああ今度は禁句ワードが2つも聞こえてきた。
絶対にあそこには行きたくない。
ポーラ先生にも会いたくない。

「ポーラ先生……」

「ええ、ポーラ先生のところに」

ロビン先生がそっとあたしの肩に手を置いて保健室に行くように促してきてから、その手をさっと振り払った。

「………ポーラ先生と仲良いんだね」

抑揚のない声でつぶやく。
目眩が襲ってきたかと思えば、今度は頭がずきずき痛む。

「え?」

「あたしを口実にしてポーラ先生に会いに行きたいだけでしょ」

「なにを言っているの?
ナミちゃ…
「もうやだっ!!
この想いが届かないのも、この願いが叶わないのも…」

どろりとなにか黒いものがお腹の中でのたうち回ってあたしにそう叫ばせた。
嫉妬、焦り、悲しみ。
いろんな負の感情がない混ぜになってあたしの理性を溶かす。





ぷつり、と頭の中でなにかが切れた音がした


「……ナミちゃん、一体どうし、っ

ロビン先生を強く引き寄せて無理矢理唇を奪った。

「んっ………」

唇を重ねてただひたすら奪うことを考えて、それからどうすればいいのかわからなくなった。

どんっ、とロビン先生に突き放されてよろめく。
まだ頭が痛い。

「ナミちゃん、なにがあったの?」

こんなことされてもまだあたしを気遣うロビン先生は本当に馬鹿だ。
優しさは、とても残酷であたしの剥き出しの心を容赦なく傷つける。

「どうもしてないよ
ただポーラ先生とロビン先生が仲良くしてるのを見ただけ
……ただそれだけ」

「それは…」

ロビン先生の両腕を壁に押し付けて拘束する。
何も聞きたくない。知りたくない。
今度は吐息ごと奪う。
ロビン先生の口内を犯して息をする隙も与えなかった。

「んんっ、……ナミちゃ……やめっ…」

何も残らなくなるくらいすべてを奪い取りたくて、求めれば求めるほど涙が溢れてきた。

苦しそうにロビン先生があたしの背中をどんどん、と叩く。

どうしようもないこの欲求を静めようとしても飢えは満たされなくて、一方通行のこの溝は深まるばかりで。

虚しさが募って両腕の拘束を解いた。








ぱしんっ、





そっと手をあてたら左の頬が熱を帯びていて、ああ平手打ちってそんなに痛くないんだって、他人事のように思った。

「こんなの間違っているわ」

ロビン先生が目を合わせずにそう告げる。

間違ってる? 一体なにが?
無理矢理キスしたこと?
それともこの想い?
わけがわからない。
もうなにもかもわからないよ。


乱暴に扉を開けて資料室を飛び出した。
廊下を全力疾走していたら、頭がぐらぐらと揺れて視界が霞んで最後には真っ暗になった。



















<あとがき>
ナミちゃん病んでます。
なんか想いが誤魔化せないところまで来ると、あとは爆発するしかないような気がしてこういう展開になりました。
なんだろう…とりあえずごめん






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