真っ暗な空間をただひたすら歩いた。
前が見えなくて手探りで辺りをうかがう。
不安に駆られて後ろを振り返っても暗闇が広がっているだけ。
逃げ出したくても進むべき道すらわからない。
うずくまって膝を抱えて、じっと息をひそめた。

そっか
ひとりなんだ、あたしは



初めて孤独を肌で感じた。










目を覚ますと、見慣れた天井が視界に入った。
消毒液の独特な匂いが鼻をかすめ、今一番来たくなかった場所にいるんだと自覚した。

しゃっ、と周りを囲んでいたカーテンが開けられる。

「やっと起きたのね」

あーあ、今一番聞きたくない声が聞こえる。

「………ポーラ先生」

「まったく
帰ろうとしたらあなたが運ばれてきて、帰るに帰れなかったのよ」

「運ばれた?」

「そう、ロビン先生が倒れたあなたをここに運んできたのよ」

「…………そう、なんだ」

最悪だ。
迷惑をかけるだけかけておいてもう会わせる顔なんてないはずなのに、今のポーラ先生の話を聞いてうれしいと思う自分がいる。
ロビン先生は一体どんな気持ちであたしをここまで運んだんだろう。

「とりあえずナミ、涙を拭いたら?」

指摘されて初めて気付いた。
手で涙を拭ってベットを降りた。
痛みなんてないはずの左頬がまだ熱を持っている。

「…………お世話になりました」

「ナミ、私に聞きたいことがあるんじゃない?」

「………どういうこと?」

「あなた、あのとき私たちのやりとりを見ていたでしょう?」

「なんのこと?」

「私とロビンが
「やめてっ!!聞きたくない…」

どうしてそんなことをあたしに言うのかわからない。
ポーラ先生が真剣な眼差しで見つめてきた。

「やっぱり見ていたのね」

「あたしの気持ちを知ってるのに…なんで今更」

溢れそうになる涙をぐっとこらえる。
泣いて惨めな姿だけは晒したくない。

「あなたに伝えたいことはひとつ
ナミ、私ははっきりと断わられたわ」

「………え?」

「キスの後も、はっきりと付き合えないって言われたの」

どういうこと?
ロビン先生はポーラ先生と付き合ってない。
あたしが勝手に勘違いしてロビン先生にあんなひどいことを…

「それじゃあ、あたし…」

「あなたには悪いことをしてしまったけど、私はロビンの気持ちをどうしても確かめたかったの」

ポーラ先生はロビン先生に真剣に向き合ったんだ。
あたしはなんてことをしてしまったんだろう。

「ナミ、なにがあったの?」

「ロビン先生を、一方的に…傷つけた」

あたしは浅はかでどうしようもない馬鹿だ。

「何かを得ようとする時は痛みをともなうことが多いわ
自分の気持ちをちゃんと伝えたの?」

「……つたえて、ない」

「じゃあまだあきらめて泣くのはそれからにしなさい」

「どうして…ポーラ先生はそこまで良くしてくれるの?」

「さあ、生徒を元気にするのが私の仕事だからよ」

振り回して傷つけたことを謝らなくちゃいけない。
あきらめて行き場を失っていたこの想いをちゃんと伝えなくちゃいけない。

「ナミさんっ 大丈夫?」

ビビがものすごい勢いで保健室に入ってきた。

「…ビビ?」

「ひとりで帰ろうと思ったけどやっぱりナミさんが心配で
それで戻ったらナミさんが倒れたって聞いたから駆け付けたの」

「心配かけてごめん」

いつもあたしを気にかけてくれる親友。
ビビがいてくれて本当に良かった。

「ふたりとも、もう遅いからそろそろ帰りなさい。」

ポーラ先生がそう言うから、あたしは帰り支度をしてドアノブに手をかけた。

「先生、ありがとう」

「ナミがお礼を言うなんて珍しいわね」

いたずらっぽく笑って手を振ってくれた。



















ポーラ先生に言われてから、たくさん迷って悩んでまだ答えを出せずにいたら、あっという間に1週間が経っていた。


「ナミさん、とにかく前に進むべきよ」

ビビに背中を押されて想いを伝えようと、放課後資料室に向かった。

コンコン、とノックしても反応がなくて、どこに行ったんだろうと校内を探し回った。
職員室をのぞいてみてもいなくて、とぼとぼと自分の教室の前を通り過ぎようとしたら、前をロビン先生が歩いているのが見えた。

「ロビン先生っ」

見失わないようにそう叫んで駆け寄った。

「あらナミちゃん、どうしたの?」

ロビン先生はいつも通りで、あんなことしたのに普通に接してくれたことが何よりうれしい。

「先生、この間のこと本当にごめん
あたしは先生が……
「気にしていないわ」

「………え?」

「わたしは全く気にしていないからナミちゃんも気にしなくていいわ
お互いにあのことは忘れましょう?」

耳に入ってきた言葉が信じられない。
ロビン先生にはどうでもいいことだった……の?

「じゃあ職員会議があるからもう行くわ
さようなら」

ロビン先生はにっこりと笑顔を貼り付けて去っていった。
どんどん遠くなっていく後ろ姿を呆然と眺めながら、まるであたしとロビン先生の心の距離みたいだって思った。


「ナミさんっ」

気がついたらビビが目の前に立っていて、顔を見た途端に足の力が抜けてその場にへたりこんだ。

「大丈夫? どうしたの? なにがあったの?」

「うっ………ひっ、く」

体中の水分が無くなってしまうんじゃないかっていうくらい涙が次から次へと溢れてきて呼吸さえままならない。

「…いを、……な…った」

「え?」

「想いを…伝えさせて、くれなかった」

「ナミさん……っ」

あたしの悲しい気持ちが伝染したみたいに、ビビも目に涙をためてあたしを抱きしめた。







牽制された気持ちはどこに向かえばいいんだろう








<あとがき>
ナミちゃんは泣いてばっかりです。
そりゃあ泣くよね
みんなそれぞれに考えて出した答えなんだけど、うまく噛み合っていないっていうのがなんとも歯痒い、です






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