09.

次の日から、鉢屋君は素晴らしい活躍を見せてくれた。彼は非常に器用な人だ。将来ホストとか、合ってるんじゃないだろうか。巧みに彼女を甘い言葉で惑わせ(彼女がものすごく喜んでいるのを見て、彼女に見えないようにケッ、と吐きそうな顔をしているのを見てしまい、ちょっと笑った)、わからないように保健室に誘導してくれるのだ。本来聡い高等部三年生(中等部から数えて彼らを六年生、とこの学園では呼ぶのだけれど)も、彼女に構うようになってから途端に鈍くなってしまったから、非常にやりやすい、と鉢屋君はあくどい顔で笑っていた。ずる賢い。

そんなこんなで、彼女との接触率はかなり増加したので、ここぞとばかりに私は彼女から赤い糸を引き抜いていく。数えてはいないけれど、一日に2〜30本は引き抜いているんじゃないだろうか。保健室にいても彼女が眠ってくれないこともあるので、そのあたりはまちまちだが、私は確実に、赤い糸の撤去作業に励んでいた。

だから、知らなかった。

私が思った以上に、事態は深刻だったのだ。














へーすけは、変わった。


「香奈さん、」


おれのなまえをよんだこえで、あのこをよぶ。


「香奈さん、」


やめて、ききたくない。


「香奈さん、」(勘ちゃん、)


だれだかなさんって。おかしいよ、らいぞうもはちもさぶろうも、




なん で その こ を かまう の ?



(ちがう、そうじゃない)



なんで。









なんでおれのこと、わすれちゃったの。





09.糸の先を失ったしょうねんは泣く
(ぐらぐらと、視界が揺れる)


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