08.

どうしようどうしよう。一気に冷や汗が流れる。どうしようどうしようどうすんの。「私、人の小指に結ばれてる赤い糸が見えるの、てへ」なんて言える状況じゃないよというか信じてもらえないだろう絶対。


「へえ、そうなのか」

「え、」

「今、全部声に出てた」

「へ」


ああ、ジーザス。私精神異常者決定かな。












と、思っていたのだけれど。


「へ、信じるの」

「だって辻褄が合うし」

「いやいやいや」


辻褄が合うからって信じるやつなんていねーよ。思わずそう突っ込みたくなるのを寸でのところで飲み込んだ。どうやら現実主義だと思っていた彼はとんだメルヘン趣味だったらしい。こんなことを考えている時点で私の頭も相当パニックになっている。どうやら彼、鉢屋三郎君は、彼女が保健室にいるということを知り、あわよくば寝こみを襲おうと(考えてることがわかったのか鉢屋君に「襲うぞ」と脅された。ごめんなさい。)げふんげふん、もとい一緒に帰ろうと誘いに来たのだが、そこで私が彼女の枕もとで何かしているのを発見し、いじめているのなら撃退してやろうとこっそり見ていたのだそうだ。しかし何やら私は空中でパントマイムのような動きをしていて(言わずもがな赤い糸の撤去作業だ)、よくわからないまま見つめていたら急に彼女への執着が消えてなくなったと。解いた赤い糸の内の一本は彼のものだったということである。数々の彼女への自分の行動に異常性を感じた彼は、とりあえず私に真相を聞きに来た、ということらしい。


「ま、あんたに赤い糸?を解いてもらって助かったよ」

「え、や、うん。役に立ったのならよかった」


普通に感謝され、私は戸惑った。なにせこの行為は誰にも知られないものだと思っていたし、そうなるように隠してきたから、そんなことを言われることになるとは思ってもみなかったのである。少し嬉しい。










「…で、あんたはあの女が眠っている時を狙ってるわけだよな」

「うん」

「よし、協力する」

「へ」


ぽかんとする私を尻目に勝手に話を進めようとする鉢屋君。ややや、待って。君はもう赤い糸が解けたんだから元の人と結ばれ…あ、れ?
鉢屋君の小指の糸は、換気の為に開けた窓からの風でふわふわとたなびく。先が、無い?


(えーと…先が無い、てことは相手は転校生の彼女にメロメロになってて、それってつまり、)


あ、なんか思い当ってしまった。


「…あの、鉢屋君。つかぬことをお伺いしますが」

「何だ」

「もしかして、鉢屋君の好きな子って…不破君?」


あ、顔真っ赤。



08.救助した赤い糸と協力者
(…鉢屋君て、もっとクールだと思ってたよ)



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